第十一匹 メモリー
ヘカテリーナの苦悶の表情が徐々に和らいでいく。
「ヘカテリーナ、大丈夫か? もう痛みは収まったか? 」
俺はそう言って、彼女のことを労る。ヘカテリーナは、しばらくの間、心ここに有らずのような感じだった。
「アキトさん・・・。私って、今まで、黙ってたんですけど私、ここ数年の記憶と自分の住んでた場所が思い出せなかったんです」
ヘカテリーナは思い出すかのように話す
「でも、アキトさんの料理を食べたら、急に頭のなかに家の景色を思い出し来て・・・両親と楽しく過ごしていました」
涙を流しながら彼女は続けて話す。
「今はそこしか思い出せないんですけど、なんだかとっても悲しい気持ちです」
俺は、今まで彼女のことについて自分からは聞かないでいた。
話したくないことなのだろうと思い、そっとしておいたのだが、案の定記憶がなかったのである。
そんな彼女に俺はそっと声をかける。
「無理に思い出そうとしなくていいんだぞ。ヘカテリーナの記憶が戻るまで、ここに住んでてもいいからな」
その言葉に彼女は目を潤ませて、再び涙を流すのであった。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴
ヘカテリーナの涙が落ち着いた頃、彼女は俺の目を見て、
「アキトさん、改めて・・・こんな自分のこともよくわからない私をなにも言わず、受け入れてくれて本当にありがとうございます。」
そう言って頭を下げる。
「良いんだよ。前にも言ったろ、助けなきゃ男が廃るって。俺の信条がそうさせたんだ、だからそんなに気にせず、ゆっくり思い出していけ」
俺のその言葉にヘカテリーナは頬を赤らめ安堵の表情を浮かべる。
「さて、湿っぽい話はこれくらいにして料理を食べようぜ。冷めちまったらおいしくなくなる」
そういうと、彼女は
「そ、そうですね。アキトさん、本当にありがとうございます」
と言いながら、少し冷めた料理を口にする。
「んんんんん、アキトさんの料理はやっぱり最高です」
「当たり前だろ、なんたって俺が仕留めた獲物だからな、うまいに決まってるだろ」
そう言いながら、楽しい時間が過ぎていくのであった。
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