第6話 それはただ「一撃」に至るまでの物語

「なんだ、今の攻撃は!?」


「剣と魔法の合わせ技、「魔法剣」・・・自分が会得した技です。」


騎士団長の問いに、全力で剣を振り切った態勢の少年剣士が答える。


「ハッ!」


その間にも、少年剣士に標的を変えた触手を、青年騎士が切り捨てる。


「油断するな、少年!」


「助かりました。」


「いや。・・・「魔法剣」。見るのは2度目だが、見事な技だ。」


そう、英雄の息子は見ていたのだ。


一流の魔法使いである彼の母親が、少年をテストした際に、魔法剣を繰り出したのを。


発動するのに、結構な時間の「魔力の溜め」が必要ではあるが、その威力にテストに居合わせた親子3人満場一致で、少年剣士の推挙を認めたのだ。


「ありがとうございます。・・・あの時も言いましたが、この技は私が編み出したわけではありません。「栄誉騎士団長」が最期に魔物に向かって放った技なのです。」


「・・・だが、今この場で使えるのは君だけだ。その力で、父の弔いに協力してほしい。」


「それは自分の悲願でもあります。こちらこそ、協力させてください!」


「話はすみましたか?」


「英雄の娘」が、作戦を提案する。


「騎士団長、提案します!魔物の再生能力が確認された以上、倒すには今ある最大火力を集中するしかないと思います。」


「まずは魔法障壁の中和。・・・これは私が一人で何とかやれそうなので、やります。残りの魔法使い全員で最大威力の攻撃魔法を集中。」


「それで魔物が倒せないまでも動きを止めたところを、「魔法剣」でとどめ。防衛騎士はそれまで攻撃部隊全員を守る。これでどうでしょうか?」


「・・・危険だが、ジリ貧になるよりはいいな。その案を採用する!」


騎士団長が檄を飛ばす。


「皆、聞いたな!?これにしくじれば後がないと思え!!作戦、行くぞ。詠唱、開始しろ。」


騎士団長の指示に、「英雄の娘」含む、魔法使い全員が詠唱を始める。


「防衛騎士、絶対に攻撃を通すな!!」


防衛騎士へのさらなる激と、騎士団長自身もすさまじい剣技で全体を鼓舞する。


「中和、いけます!!」


「よし、作戦開始!!」


少女魔法使いが全力の「魔法障壁中和」を行う!


「中和確認しました!」


「一斉斉射―――!!!」


魔法使い9人による同時攻撃魔法が炸裂。その効果は甚大で、魔物の上半身、その左半分が吹き飛ばされる。


「・・・ハァ!!」


気合一閃。


少年剣士の「魔法剣」は、魔物の残る上半身を完全に吹き飛ばした!


・・・しかし、


「・・・・・その状態からでも再生するだと・・・」


そう。魔物は残った下半身から先程と同様、いや、それ以上と思えるスピードで再生し、反撃してきた。


魔法使いに対しては、それぞれ一本の計10本の触手で。

そして、脅威と判断したのだろうか、少年剣士に対しては5本の触手で熾烈な反撃行動をしてきた。


「魔法剣」という技以外でも優秀な少年剣士だが、1,2本ならともかく5本もの触手の迎撃は難しい。


絶体絶命の少年の目の前で、それは起こってしまった。


ザシュ!


少女魔法使い、「英雄の娘」が、・・・少年剣士をかばうため、身を挺して4本の触手を受けたのだ。


「え?」


即死。それを証明する形で、魔物の「吸収」が行われ、


・・・少女の身体は、跡形もなく消滅した・・・



「ーーー!!、ーーーーー!!!!」


誰かが何かを言っている。叫んでいる。


おそらく、自分を救った少女の兄、「英雄の息子」であろう。妹の名前を連呼しているのかもしれない。


だが、少年剣士は、あまりに一瞬の出来事に、何を言ってるのかよく聴き取れない、思考と外界が遮断されたような感じとなる。


(・・・俺は、また見ているだけなのか。)


(・・・ううん、そうじゃないよ。)


少年の中で誰かの声が聞こえた気がした。


その声は、自分を守ってくれた少女の声。

いつしか、少年の目の前に朧げに霞んだ少女自身が見えてくる。


(・・・俺は、自分に都合のいい幻を見ているのか・・・)


(そうかもしれない。でも、そんなのはどうでもいい。伝えたいことがあったの。)


少女はただ事実を述べる、そんな表情で告げる。


(お父様の仇、「栄誉騎士団長殺し」。・・・この魔物は、あなたに限らず、誰にも倒せません。)


(! ・・・そうか。)


断言された事に驚くも、納得する少年。


(私は殺され、吸収されて魔物の一部となった。だから、わかる。この魔物は、「どんな状態からでも再生できる」・・・)


この魔物と戦う意義すら失わせるような宣告。だがしかし、上半身が吹き飛ばされても瞬時に再生した先程の現象が、まさに事実を証明している。


(・・・何か手はないのか。)


(無いと思う。全身を一瞬で消滅させたり、他の生物をずっと「吸収」しなければ、いずれ死ぬかもしれないけど、・・・現実的じゃないでしょ?)


(・・・そう、だな。)


(・・・ところで、あなたの「魔法剣」は、お父様が使っているのを実際に見て、会得したのでしょう?)


突然の違う質問になんだと思うが、返す。


(うん。俺はあの時、勇敢に戦う皆さんを、騎士団長を助けたかったんだ。)


(・・・・・・。もう一つわかったことがあるの。この魔物はかつて、1度だけ殺されかけたことがある。)


(それは、・・・私のお父様の「魔法剣」を受けた時。・・・もし、魔法障壁を破壊され、ダメージを受けていたら、魔物は死んでいたと思う。その頃の魔物には「再生」能力はなかったから・・・)


(?・・・あれ、私、何を言いたいんだろう?あはは、)


(いや。・・・何となく見えてきたよ。ありがとう。)


少年の「ありがとう」に少女はびっくりするが、微笑んで返す。


(そう。・・・良かった。)


(・・・だから今は、さよなら。)


少女の姿は、少年の前から徐々に薄れていく。




「今のは、・・・なんだ?」


再び少年の中で戻る、戦闘の喧騒。


だが、少女の兄、「英雄の息子」は、狐につままれたような表情でこちらを見ていた。・・・ならば話は早い。


「お兄さん!すいませんが、一つだけ、お願いさせてください!!」


突然の呼びかけに一瞬動揺するが、返す青年。


「君にお兄さん呼ばわりされる謂れはないのだが、なんだ?」


「無礼は重々承知で言います!腰に差している、「栄誉騎士団長の剣」を自分にください!!」


本当に無礼な申し出に、・・・不届きすぎて青年は逆に冷静に返す。


「・・・何故だ?」


「魔物を倒すため。・・・そして、「騎士団長」を死なせないためです。」


少年は信じ難い言葉を続ける。


「自分の「魔法剣」は、厳密には剣と魔法を重ねるだけではなく、「自分が斬りたいと脳裏で描く」所を斬れる技なのです。」


「だから、「自分の脳裏に今でも鮮明に描ける」あの瞬間に、最強の剣を届けさせてください!」


「今」の魔物は倒せない。少年は「過去」の魔物を倒そうというのだ。「当時の騎士団長」と協力して。


「・・・荒唐無稽な考えだな。」


しかし青年は、遺品として届いた「栄誉騎士団長の剣」を鞘ごと腰から外す。


「・・・これは、俺自身が仇を討てると思えた時に抜こうと持ってきた。・・・ひょっとしたら、今、この時のために持ってきたのかもな。」


青年騎士は、父の形見の剣を、少年剣士に託す。


「奇跡でも何でもいい。頼む、少年よ。・・・あの魔物を倒してくれ。」


「ありがとうございます。謹んで使わせてもらいます。」


「話は終わったか!!?」


触手と戦闘を継続していた、騎士団長が叫ぶ。


「何をしようとしてるかは聞こえなかったが、少年!!おまえのしようとしている事は、見当違いじゃないらしいぞ!?」


思いがけぬ騎士団長の言葉に、驚く少年剣士と青年騎士。


「・・・「英雄の娘」が倒され、吸収され、少年への「反撃」は一旦おさまった。だが、また「少年に向かって」の触手攻撃がきてやがる!!」


「この理由は魔物に聞かないとわからん。しかしおそらく、「少年のやろうとしていること」を、生き物の本能で危険と察知しているんだ。俺はこれに賭ける!」


改めて、騎士団長が討伐隊全員に指揮を飛ばす。


「全軍、「魔法剣」を使う少年剣士を触手から守れ!・・・そして、少年。任せた!全力でやれ!!!」


「「「オーーーー!!!!」」」


防衛騎士を中心に、少年剣士を守る陣を組む。魔法使いたちもそんな騎士を回復あるいは援護する。


討伐隊が、今再び希望に向けて一丸となった。


「団長・・・みなさん・・・ありがとうございます!!」


少年剣士は、託された「栄誉騎士団長」の名剣を力強く抜く!


「・・・「騎士団長」。あの時のあなたを目指し、修練しました。そして今、あなたの娘含め、ここにいるみんなが、僕とあなたの「魔法剣」に希望をかけてくれています。」


だから僕は、



「・・・この一撃に、全てをかける!!!」

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