第89話 『火星に』 その7


 宇宙船内だから、盗難なんかない、と思ったら、間違いである。


 いまは、宇宙船は地球近傍にあり、まだ、太陽系外運行に備えた準備を拡充している状況だ。


 また、乗員にも、アーティストにも、太陽系内のみの契約をしている人が多数ある。


 だから、さかんに運搬船や宇宙船が行き交う。


 中には、盗難目的の人がいるのは、むしろ、当然だった。


 だから、警察官も乗り込んでいたし、さらに優秀な人材が、しかも、外宇宙にまで行く覚悟のある人が、まだまだ、必要なのだ。


 小さな盗難事件は、実際にいくつか起こっていたが、重要物品は監視が厳しくて簡単には盗めない。 


 実際に犯人が逮捕された事例もあった。


 が、先の事件が地球でも報道されて、イルタさんが命を狙われたりしたから、かなり動揺が広がっていたのである。


 また、陰謀論を唱える人たちもあった。


 銀河連盟は、もとから、地球を滅ぼす気であり、宇宙船内にいる人たちは、彼らにより、選ばれて脱出したのだ。


 ヘレナさんたちが絡んでいるのも、気に入らない人たちからは、批判の的であった。


 イルタさんは、反逆しようとして、狙われたのだ。


 地球政府は反論したが、すればするほど、疑われたのである。


 タルレジャ王国は、むしろ、ほとんど反応しなかった。


 しかし、ゴフリラーは、ただものではなかったのである。


 マッテオ・ゴフリラーさまは、17世紀から18世紀にかけて活動した、イタリアの弦楽器製作者である。


 とくに、チェロの製作で名高く、その作品は、まさしく地球の宝物の一部である。


 過去の名高いチェリストたちが、連綿として使用してきたが、世界戦争で、ストラディバリウスやアマティなどと同様に、その多くが消滅した。


 かつては、100以上残されていたらしいが、いまは、わかっているところでは、10丁あるかどうかであり、その8割は、タルレジャ王国のヘレナ女王が所有していた。実際に、個人で買えるようなものではなかったし。


 ただし、秘匿しているわけではなく、厳格に管理し、さらに委員会を組織して、適当な人材に無償で貸与していたのである。


 キングさんも、その一人であった。


 だから、盗まれたということは、大変な事態だったわけだ。


 ついに、ド・ロンコ警部補が呼ばれた。


 同行していたのは、新しく加わった、赤血刑事である。


      👮

 


 


 


 

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