第86話 『火星に』 その4


 ヘレナさまの公用車は、1000メートルはある崖下に降りて行く。


 『ヘレナさん、あいつ、変形しながら、追ってきます。』


 『やはり、そうか?』


 『はい?』


 突然、エネルギーの固まりが降ってきた。


 『攻撃されました。当たりましたが、問題ないです。』


 『わたしが作った車だものね。仕方がない、反撃しましょう。あの手のものの弱点は、中心にある30センチくらいのパーツよ。わかる?』

 

 『はい。照準完了。』


 『ヘレナ砲発射。』


 公用車から、不可思議なエネルギーが放射された。


 そいつは、間違いなく、相手の中心を撃ち抜いたのである。


 その物体は、物質の構成力を失い、消滅した。


 『内部に生き物は、いた?』


 『いえ、既知の生命体はありませんでした。』


 『よかったね。』


 『ヘレナさん、なんで、あれの弱点を知ってたんですか?』


 『だって、火星の女王さまが、むかしむかしに作ったものだから。その、レプリカだけどね。大々的に宇宙に輸出したから。まあ、記憶をもらったから、役には立つけどやっかいなんだ。自分との区別を維持しなければならない。』


 『あちらの、ヘレナさんですか。』


 『そうそう。まあ、遺伝的な関連は何もないのに、わたくしと同じ生き物に取りついてる化物よ。』


 『ほーっ、ほっほっほ。嬉しいことをおっしゃいますわ。ヘレナさま。化物とは、最大の称賛です。』


 『わあ。出たあ。』


 公用車の内部に、もうひとり、ヘレナさまが出現したが、それは、ルイーザさまではない。


 『予告なしに来ないでください。火星の女王さま。健康に良くありませんから。』


       👸


 

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