第85話 『火星に』 その3


 ヘレナ女王は、地球に帰っていたのである。

 

 長年、第一王女、第一の巫女として国につくしてきたので、一般の王国民みんなからすると、『王女』さま、の方が親しみやすい、しかも、ヘレナさまもルイーザさまも、また、ヘネシーさまも、まるで若さが衰えることがない。いつまでも、『王女さま』で、十分通ってしまうのだ。


 そこで、王国(王宮)は究極の対策を打ち立てたのである。


 『女王にして、王女、王女にして、巫女。三体一体である。』


 そうした理屈をたてたのである。


 これは、一部からは、あまりに、あほらしいと言われたものだが、じつは、なにかと、大きな役割を果たすことになったのである。


 つまり、ヘレナさんは、永遠の王女である。


 

 さて、公務に追われるなか、ヘレナ王女=女王は、北島の視察に出掛けていたのだ。


 公用車は、自動運転である。


 運転しているのは、惑星生態コンピューター、アニーさんだ。


 惑星自体が、その構成部品であり、どのようなスーパーコンピューターも、まったく歯が立たない。


 ヘレナさんが、わずか10代で作った一大傑作である。


 しかし、そこには謎があったのである。


 読者は、その謎の一端を、すでに知っている。


 さて、北島の警備は堅固であり、王女さまたちが危険に合うようなことは、まずあり得なかった。


 それまでは。


 アニーさんが警告を出した。


 『前方と、後方から、制御不能の大型自動車が来ます。殺気あり。』


 『あらあら。珍しい。』


 『さらに、上空から、怪しの物体が接近中。』


 『どこから、来たのかな?』


 『判りませんね。急に現れました。おそらく、ワープです。地球の技ではありません。』


 その物体は、始めは2メートル四方の正方形だった。


 しかし、接近するにつれて巨大化したのである。


 公用車の上空に来た頃は、一辺が2キロ以上になっていた。


 さらに、前後からは、超大型重機が、高速で接近してきた。


 『挟み撃ちにする気かな?』


 ヘレナ王女は、平然と言った。


 だいたい、ヘレナさんは、ありさん風に、ずらりと車列を並べるのは嫌いであった。


 また、アニーさんが監視している以上、他に警護の必要もない。


 『アニーさん。むだな戦いはしたくない。崖を降りましょう。』


 『わかりました。しかし、正体は知りたいところですよ。ヘレナさん。』


 『ほっときなさい。あれで、一生懸命なんだからね。大体想像はつくわ。』


 『はあ。まあ、では、ほっといて逃げましょう。』


 アニーさんは、車を道路から飛び出させた上、崖底に急降下した。


     

        🧗

 


 


 


  

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