第84話 『火星に』 その2


 火星のテラフォーミング計画は、戦争で失敗してしまったが、それでも銀河連盟の後押しがあり、急速に巨大な都市が建設され、地下資源の採掘事業が行われていた。


 しかし、それは、銀河連盟の監督下にあって、地球人によるやりずぎが厳しく監視されていた。


 銀河連盟における、地球人の信頼性は、極めて低いらしい。

 

 ちなみに、赤血警部補は、左遷されたという事実には目をつぶっているらしい。


 ぼくが聴いた話では、銀河連盟から地球政府には、警部補の抹殺を密かに要求してきていたらしい。


 しかし、タルレジャ王国が反対したという。


 王国政府は、王室からは独立しているから、あくまで政府の要求だったわけだが、背後にヘレナさまの存在があるのは間違いないだろう。

 

 タルレジャ王室の財力は、銀河連盟の予算を越えるとも噂されたりもするくらいである。


 銀行惑星『大河』には、タルレジャ王国の資産のかなりが預けられているらしい。という、うわさもあったが、しかし、それは、ほんの一部に過ぎないともいう。それでも、銀河連盟には、魅力的だろう。


 誰も、敢えては言わないが。


 しかし、話はまるで違うが、警部補が月で生活するのは、極めて困難だった。


 暗殺される可能性が高いのである。


 まあ、平和になったとは言え、危ないことは、沢山あった。


 しかし、宇宙船内では、火星でのイベントが着々と計画されていた。


 滞在期間は、半月である。


 目的地は、太陽系からはるかな先なのだから、あまり、火星に長居する理由はないだろう。


 しかし、銀河連盟の構成宇宙人たちの前評判に、暗い影が落ちていた。


 地球人の立場は、実に脆弱なのだ。


 卑近な言い方をしたら、明らかに、いじめの対象だったわけである。


 銀河連盟が、崇高な存在というわけではない、とは、ヘレナさんからも聴かされていた。


 『銀河連盟には、様々な生命体があります。地球人類の同種あたりを、つまり人類に近いような生き物を食糧とする伝統がある生物もあります。しかし、文明の発展により、そうしたことを、理性で押さえているわけですが、それは、地球人にしても、変わらない部分はありますよ。くじらさんとか、牛さんとか。ぶたさんとかね。』


 『同じでしょうか?』


 『もちろん、なにも、変わりません。』


 ヘレナさんや、ルイーザさんは、ある意味超越的な人類である。


 その正体は、良く判らない。


 『しかし、音楽をするにあたり、それは、本質的ではありません。芸術はテクニックであり、人格のあり方に依らず、優れた人はあります。まあ、犯罪は困りますが。とくに、政治犯は厄介なのです。わたくしたちは、昔から、優れた芸術家で、政治犯の救出もしてきました。ただし、見返りも必要だったわけです。見返りもテクニックなのです。』


 『そこらあたりは、ぼくの範疇ではないですね。』


 『まあ、しかし、一般の人も対象になりますから。権力者からしたら、たとえ、あなたであろうが、ナーベル賞受賞者であろうが、反対するものは、ひとりも許さないのです。でないと、統制がとれませんから。それは、極めて平等なわけです。』


 『あなたの、王国も?』


 『はい。しかし、わが王国は、北島と南島でまるで違うシステムを取ってきました。ヘネシーは、……かつての、第三王女さまですが、現在の地球総統さま、ですね。激しく反対しておりましたし、ルイーザさまも、反対に近かったのですが、わたくしは、押し通しました。多少改革はしましたが。それで、良かったと思います。北島は様々な利点がありましたから。』 


 『まあ、それは、国内事情ですから。』


 タルレジャ王国の北島は、タルレジャ教団による、宗教的独裁社会である。事実上、ヘレナさまの独裁だったが、なぜか、平和に維持されていたし、財政力が抜群なため、生活レベルは高いらしい。


 確かに、地球総統のあり方は、謎だらけだった。ただし、現在は、独裁は廃止されている。


 

 『はい。しかし、地球政府ができて、わが王国も、いまは、地球政府の一部でしかありません。』


 『いまだに、反対の人がいますね。』


 『そうです。そうです。しかし、実際のところ、地球政府の設立には、わが王国の寄与が大きかったのですよ。あまり、宣伝はしません。刺激になりすぎますからね。』


 『だから、銀河連盟とは、関係が強い?』


 『まあ、そうなのです。一部の人からは、裏切り者ですね。だから、いまだに、わたくしたちを狙う暗殺者もあるわけです。』


 『はあ………危ないですね。』


 ぼくは、つぶやいた。

 

 そんな話を思い出しながら、火星をぼんやりと、眺めていた。


 まさか、自分が火星に来るなんて思わなかった。


 その時、緊急警報が鳴った。


 


 


 


 

 


 

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