第83話 『火星に!』 その1


 銀河連盟が地球を救済するための条件としたのは、次の事であった。


 『地球人類は、紛争の解決手段としても、2度と武力による戦争は行わない。』


 もし、この条件に従わないのならば、連盟は地球を救済しない。


 また、約束を破ったら、その時点で地球を見捨てる。


 もし、そうなっていたら、おそらく地球人類は、大量の放射性物質の汚染の山の中で、絶滅していたに違いない。


 生き残ったとしても、知的生物ではありえなかっただろう。


 『その方が良かったかもな。』


 と、スワルト・ヴェングラウ博士は、皮肉混じりに言うのであった。


 『知性は、破壊の根源だ。音楽の根源ですら、同じところから出ているのだ。音楽の根源には破壊の衝動がある。ベートーヴェンを見たまえ。破壊と包容の動機が一体となっている。平和は、それらを包括して、意識的に目指さなくては、成り立たない。』


 しかし、パスカ・ノーニ氏は、そうは言わない。


 『人類は、本来残虐なのだ。平和は、残虐のうえにしか成らない。』


 このふたりは、絶対に折り合う道を見いだせないと言われてきた。


 しかし、グリーノ・ゼンダー氏は、このふたりを、何故だか、不必要には戦わせずに、この世に役立つように仕向けてゆく天才である。


 ただし、自分が一番であろうとは思わないらしい。


 確かに、社会的地位や名声、経済的利益から見ても、先のふたりが(たぶん)勝っていた。


 しかし、ぼくは、ゼンダー先生が好きである。


 それこそが、ゼンダー氏の最大の持ち味に成っていた。


 みんなから、好かれ易いのだ。

 

 『皆から好かれるやつなんか、おバカさんにすぎん。』


 と、パスカ・ノーニ氏は、言ってのける。


 『それは、立派なことだ。』


 と、スワルト・ヴェングラウ先生は称賛してみせる。


 それでも、この3人の大家が並ぶ宇宙オーケストラは、なんと、贅沢なことか。


 しかし、地球に残った、フォン・キラリアン氏や、グレン・ペリアン氏も、ある意味得をしたと言えるかもしれなかった。


 宇宙の危険性は、果てしなく深いからであるし、また、残った彼らの責任も大きいと言えるだろう。


      🌟


 月から火星への道のりは、遥かに遠いものである。


 しかし、銀河連盟の移住用宇宙船には、ほとんど問題にならない。


 火星までは、ゆっくりと航行して、1週間で到着する。


 ところが、王女さまたちは、一生懸命飛べば、実は1日あれば、お釣りが来るほどしか掛からない。


 だから、一旦地球に戻って仕事をしていたのだ。


 あの2人にとっては、少なくとも太陽系内ならば、普通のビジネスにすぎないらしい。


 いったい、この差は、なんだろうか?


 それは、極めて重要な事だったのであるが、その意味は、なかなか判らなかった。



      ☀️

   

       


       

 


 


 

 

 

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