第35話 『月基地にて』 その2
月に上陸するにあたっては、入念な身体検査が行われる。
危ない病原体や、月の治安や、また農作物などに被害を与えるような物質、麻薬とか、害虫とか、を持ち込まれないように、目を光らせているのだ。
銀河連盟が提供した先進技術で、月の都市は成り立っている。
地球人より、地球外知的生物のほうが、たくさん住んでいる。
月のこの街には、地球人が、外宇宙生物と、正しく接触する、練習や、訓練の役目がある。
仕事として派遣されている人も、旅行に来た人も、修学旅行の子供たちも、ここで、地球外知的生物と、必ず触れあうことになる。
厳しい場面も起こりうるし、起こっている。
それを、解決させるのは、基本的には地球人側である。
ただし、中には、地球人には、手に負えない地球外生物も現れるから、その場合は、連盟がお手伝いとして、仲裁することもあるらしい。
中央の、ルナ・シティは、広大な、また、堅固な二重ドームに守られていて、大概の隕石などは、内側のドームには、到達しない。
あまりにでっかいのが来たら、地球が危ない場合も含めて、また、やり方が違うのだそうだ。
それは、連盟の仕事になるが、まだ、そういう事態は起こっていない。
いずれは、地球側に、そうした技術も、転移すると、連盟は言っているらしい。
と、いうのは、予習した内容である。
ぼくも、あの地球首都で会った、いわゆる外宇宙人の職員さんの他は、資料室に来た少数の生命体としか、まだ、ほとんど話をしたこともない。
あの、御飯小路も含めて。
かれらは、みな、友好的だったが、こんどは、ぼくたちが仕事として、演奏会などをするわけだ。
絵画の展示などもある。
批判的に見る存在も、あるに違いない。
もっとも、ぼくは、ステージ・マネージャーの手伝いと、あとは、聴くこと、資料の収集が仕事である。
それで、楽員たちは、すぐに、練習に入った。
ぼくは、ホールを見て回ったあと、許可を得て、資料探しに、市場に出てみた。
ホール自体は、地球のホールと大差ない。
月での滞在時間は、あまり長くはない。
時間は、有効に使わなくては。
ここは、まだ、地球圏内であり、基本、地球の文化で成り立っている。
だから、地球人にはむしろ、生活しやすい。
一方、初めてやってくる外宇宙生物たちにとっても、地球人と相対する予行演習の場所、みたいなものでもあるのだろう。
市場に出れば、様々な種族にであうことになるから、かなり、緊張はしていた。
月の都市は、『移動用歩道』が整備されている。
地球の、動く歩道などとは、かなり、違う。
歩道が動くわけではない。
にもかかわらず、動こうとすると、なぜだか前に進む。
自分が占有している空間が、そのまま、動くらしい。
まわれ右。も、できる。
反対方向にも、そうしようとすれば、勝手に進む。
歩いてはいるが、実際の速度は、かなり早い。
しかし、ぶつかることはない。
どうなってるのか、さっぱり、わからないが。
本当に歩きたいならば、歩行用スペースがある。
それこそ、歩道である。
ゆっくり、買い物したい場合は、歩道を歩くし、商店街は、歩道がメインで、移動する歩道は、真ん中にある。
自動車などは、搬入など以外では、街の中には入れない。
それは、空中からやってくるし、タクシーも、空中を飛ぶ。
この、メインの街から、月の上の、他の施設に出入りするには、小型宇宙挺や、連絡シャトルに乗る必要がある。
それは、個別に許可を受けるか、定期パスがないとできないが。
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