第32話 『陰謀?』 その2


 その、ごく軽い警報音は、無視してもいいけども、念のためお知らせ。


 くらいのものだと、説明は聞いていた。


 しかし、すでに、お手伝いの人は帰ってしまったので、いま、資料室内にいるのは、ロボット君だけである。


 『やれやれ、初めてのケースでもあり、画像を見ましょうか。』


 と、ぼくは暗転させていたスクリーンを開いた。


 もっとも、そこはいわゆる『壁』であって、特に何もないわけだ。


 宇宙人たちは、ぼくの自宅の壁に細工をしたらしい。


 まあ、壁がスクリーンになるとかの技術は、地球にもあったはずである。


 もっとも、ここの画像は非常に鮮明だ。


 現実との区別はつかないと言っていい。


 さっきは、宇宙空間を映し出す窓になっていた。



 『新世界交響曲』は、あの有名な第2楽章の終わり位になっていた。


 この曲には、フルートにはおいしい部分がいくつもある。


 第2楽章も、そうである。


 指使いが、ちょっと、いやらしいのだけれども。


 ドヴォ先生は、どういう気持ちでここを書いたのかわからないが、すでにこの世のものではないように思う。


 宮沢賢治先生は、そこんところを、鋭く見抜いていたのだと。ぼくは考えている。


 『銀河鉄道の夜』は、その証拠である。



 音楽はかけっぱなしで、ぼくは映像を見た。


 『なにが、問題?』


 ロボット君の広い視野を、ぼくたち人間は全部いっぺんには認識できない。


 画像をスクロールしてゆくと、『おうう。これは・・・・・』


 ぼくは、ちょっと考えた。


 それは、早い話し、頭だけの生きもので、その周囲360度にわたって、お口があるようなのである。


 しかし、この姿は、明らかに、見たことがある。


 そう、これは、むかし、ぼくがあの『可笑市』で対峙した宇宙人とそっくりである。


 ぼくは、あの事件の後、解任されて、あの街を出た。


 謀略を練っていた政府の高官たちは、収監されたらしい。


 それ以来、あの街にも、あの島にも行っていない。


 彼らは、核戦争になった際に、島をたたんで、どこかに行ってしまった、と、風の噂に聞いたように思う。


 彼らと同化した人間たちが、その後どうなったのかは知らないが。


 ここに乗船していたとすれば、ちょっとした発見ではあるけれど、いまさらどうこう言う筋のものではない。


 ただ、彼らは人類に同化作用を及ぼすことが可能だから、もし、そのものならば、注意が必要だろう。


 ということならば、出て行かない方が賢明だろう。


 ぼくは、彼らにとっては、厄介者だしね。


 ところが、その、結局は未知の宇宙人が、ロボット君に話しかけてきた。


 『あの~~~。いいすか?』


 『はいはい。なんでしょう。』


 ロボット君は、普段はあいそが極めて良い。


 『あのです。ここの、オーナーと言いましょうか。管理人さんと言いましようか。その方と、お会いしたいのですが。』


 どきっとした。

 

 真正面から見たら、たしかに、あの連中に間違いがない。


 もっとも、彼らの区別は、ぼくには、なかなか、つかないのである。


 みな、見た目は、同じような姿なのであるから。


 『おう・・・それは、いま、もう深夜ですから、マスターはお休みになっています。また、明日以降にしてください。まあ、めったにここにはいないですが。』


 『そうですか。そうですな。確かに、人類は夜は寝るのが本筋ですなあ。』


 彼らは、しかし、どこにでも出入りする技能がある。ほんの少しの隙間があれば、身体を二次元に変化させて、通過する。


 ここにも、勝手に入って来るのは、可能だろう。


 ぼくのお家は、隙間だらけである。


 しかし、ここで会うのは、非常に危険である。


 どうせなら、ロボット君がいる場所の方が良い。


 『ああ、そこを、なんとかしてくれませんかしら。急ぐお話しなんで。緊急と言ってよいです。いやいや。危害を加えようなんてことはありません。あのかたは、割に夜は、なかなか寝ない人間さんですよ。よく食堂に来ていたし。』


 むむむ。こいつは、あの食堂の、あの・・・・・


 ということは、怨まれていても、おかしくはない、と、いうことだ。


 どうやら、ロボット君は、人間と同じく『緊急』という言葉には、慎重になるらしい。


  『つう~、つう~、つう~』


 と、呼び出し音が鳴ったのだ。






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