第31話 『陰謀?』 その1


 いま、ここに王女さま二人がいた。


 夢みたいな話である。


 しかし、両方のほっぺたに残る、その、あまい香りは確かに現実の感覚である。


 『ふう・・・・まいったね。』


 ぼくは、本来、我が家の万年布団に比べれば、天国の雲の上のようなベッドに座り込んだ。


 時刻は、深夜12時(船内時刻だけれど・・・)になろうとしている。


 実は、資料室の様子は、ライブカメラで確認することができるようになっていた。


 もっとも、ロボット君がいるので、常時監視なんかする理由がない。


 ロボット君は、資料室内のすべてを見ている。


 もちろん、個人情報と言う問題があるから、来館者様が、手元で何を見ているのかについては、非常時でない限り、記録は残さない。


 ここに来て、他人には知られたくない考え事をする人もいるに違いないし、思い出の写真を眺めたりもするだろう。


 実は、この旅行の終了後に、地球から、よその惑星などに移住する制度が作られていた。


 事実上の、亡命といっても必ずしも間違いではない。


 まあ、うっかり爆弾でも置かないかぎり、難しい事は起こらないだろう。


 また、起ってもらっても、困る。


 例えば、喧嘩などは、あるかもしれない。


 ここには、宇宙船の職員さんも休憩時間に出入りするのは自由だ。


 そうして、必ずしも、地球人に好意を持っているとは限らない。


 地球人同士にも、仲の良くない人だって、おそらくは、いるんだろう。


 しかし、宇宙人たちからみたら、みな、同じ地球人である。


 地球のどこから来たのかは、専門家や、マニア以外には、興味がない。


 万が一のもめごとには、ロボット君が対処することができる。


 普通は、まあまあ、と、なだめに入る。


 さらに、ロボット君は、非常に強いのである。


 ただし、手に負えない場合は、つまり、相手に、もしかしたら身体的な苦痛がもたらされるかもしれない場合は、事前に警告を発するようになっている。


 ちょっと、実演してもらったのだ。


 『あんたね~~~、びんた入れますよお! いいすかあ?』


 とか、


 『船内、なめんてんじゃないわよ!』


 とか、


 まあ、いくらか意味不明なセリフもプログラムされているようだったが、そう言いながら、時には、鋼鉄の棒を折り曲げてみたりもするらしい。


 『そりゃあ、ちょっと、やりすぎでしょう。警備員さんを呼んだ方がいいのでは?』


 と、ここに入るとき、ぼくは尋ねた。


 すると、そのとき、アンドロイドの案内役女性が言うに・・・


 『警備員を呼ぶと、正式に船内日誌に記録されます。ロボット君の対応で済めば、そこだけの話になります。あまりに興奮状態の場合は、ちょっと、かる~~く、電気ショックなどの手段もあり得ます。相手にもよりますが。まあ、そうなる前に、退出させられます。たいがいは。』


 『はあ・・・・そりゃそうでしょうな。』


 まあそれでも、みな、船内では、基本的な礼儀は重んじるように、乗船時に要請されている。


 オリンピックなどの文化やスポーツによる国際交流の現場での、政治的な活動が好ましくないのは、言うまでもないだろう。


 同じようなものだ。


 双方に、やむにやまれぬ思いもあるだろうけれど、理解より溝が深まることもたくさんあった。


 偉い人が煽ったりもした。


 溝は、埋める意思が働かないと、埋まることはない。


 埋めたくない溝も、あるに違いない。


 人類は、そうした憎しみ合いや不信を乗り越えられず、結局、だめだだめだと言いながら、核戦争なんか起こしてしまった。


 銀河連盟の側は、そうした地球人的な問題を、ここに持ち込まれたり、起こされたくはないし、地球人以外の連盟内に影響するのは、もっといやだったに違いない。


 それでも、そうしたおかしなトラブルが起こるというのは、かなり考えにくいよなあ、とぼくは、楽観的に思っていたのである。



 で、深夜12時になると、あのお手伝いの画家見習いくんは、帰っていった。


 『もう、お薬飲んで寝ようね。』


 ぼくの自宅は、そのままここに移築されていた。


 そこに、資料室が合体させられたわけである。


 そこで、いつものように、くまさんや、ぱっちゃくんにお休みを言った。


             🐻  🐼


 溜まっていたペットボトルや、ごみ類は、奇麗に清掃されていたのである。


 ありがたいことだ。


 で、ベッドに横になった。


 ドボルザーク(ドヴォルジャ-ク)さまの《交響曲第9番ホ短調作品95》のCDをかけた。


 いわゆる《新世界交響曲》である。


 宇宙空間での旅ならば、良い選曲だと思う。


 実は、ここから外の宇宙空間の様子を、見ることが可能である。


 窓ではないが、窓があれば、こう見える、というものなんだそうだ。


 部屋から見たら、宇宙への窓が、すっと、開くような演出になっている。


 実際は、テレビみたいなものだ。



            🌌  ☆彡



 そこで、ロボット君からの注意シグナルが鳴った。


 『ぴぴん。ポポン。ピピン。ポポン。』


 この音は、それほど緊急事態ではないが、《一応、お知らせしますよお~~~》、というくらいのものである。



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