第30話 『資料室&自宅』 その2 


 そこには、王女様がいた。


 それも、ふたり。


 まったく同じ姿で、同じ服装で、どうにも区別はできそうにない。


 王女様が双子であることは、もちろん知っていたから、そこは理解が可能だけれど、なぜ、ここにいるの?


 そもそも、どこから、侵入したのかしら。


 第1王女様は、公務が忙しいから、この旅行には参加しないことになっていた。


 しかし、さきほどの第2王女さまのお話では、突発的に出演する気があるらしい。


 それも、第2王女様の名義でだという。


 それって、詐欺行為かい?


 もっとも、こうしてみると、本当に区別はつかないのだ。


 双子でも、年齢とともに、いくらかは違いが出るものだとも聞いたような気がするが、このおふたりは、ずっと同じような環境にいただけに、そういうこともないのかもしれない。


 しかし、どうちらも、10代の後半で、すでに結婚していたように思うが。


 いまも、若々しい姿が、まるで変わらないとも聞くし、実際そのようだ。


 ふと気が付くと、髪飾りの小さな白いカラスが、左右逆写しになっている。


 『よく、気が付かれましたわね。さすが。』


 ひとりの王女様が、機嫌良く言った。


 ぼくの視線が、そう示したのだろうか。


 『この白いカラスは、王国の守り神さまです。』


 『あの・・・・・』


 『あなたがおっしゃりたいことは、分かっております。なぜ、どうやって、どこから入ったのか? なぜわかるのか? ね?』


 『いやあ。そうです。』


 『別に、襲う気はございませんの。でも、あたくしたちの場合は、周囲の目が、なにかとめんどくさいのです。ここは、まだ月の近傍です。小型の宇宙艇でも、王宮から10分くらいで、すぐに来ることが可能な距離なのです。地球の監視網など、かわすのはお茶の子さまですわ。』


 『はあ・・・お茶の子様、ですかあ。』


 ぼくは、すっかり、ぼけたような返事をした。


 つまり、このお二人は、実は、ぼくよりも10歳くらい若い、というところのはずなんだけれど、どうみても、20代としか思えないのは、ずっと不思議には思っていた。


 『あたくしたちは、基本的に歳は取らないことにいたしましたの。』


 『そりゃあ、めでたいですが。』


 『ありがとう。ここに入るのは、しごく簡単です。SF映画の『転送』みたいなものですが、あのように、分子に分解したりはいたしません。次元の狭間をするっと、こう、移動するだけなのです。』


 『さっぱり、わからないです。』


 『大丈夫です。地球の誰もわからないのです。あなたには、妹がいつもお世話になっていると聞きまして、これは、早くご挨拶しておかなければならないと思いましたの。それだけですわ。』


 もうひとりが、にっこりと微笑みながら、肯いた。


 確かに、第二王女様が付けていた髪飾りと、いましゃべった王女様のものは位相が違うのだ。


 でも、交換すれば、それまでかもしれない。


 『まあ、そうですの。そこが、良いところです。もちろん、詐欺にはしたくはございません。だから、出演時には、〈タルレジャ王国王女マーガレット〉ということで出演いたします。あたくしたちのフルネームは、とても長いのです。自分でも、間違えそうなくらいね、その、『アマリエ・マーガレット・・・』は、二人とも同じです。まあ、めったに使いませんが。そのあとに、へレナとかルイーザが付きます。まあ、おまけですわね、でも、それが確かに通常の言い方ですが、より公式な名前を使うのですから。よろしいでしょう?』


 『はあ・・・なんか、灰色みあいなあ。』


 『お~~~~ほほほほほほほほほ。あたくしたちに向かって、そういうふうに、ずばりと言える方は少ないです。そこが、また、良いのです。あなたなら、信頼できるからです。』


 『そりゃあ、買いかぶりすぎです。ぼくは、落ちこぼれですから。落ちこぼれに、怖いものはない。ちょっと言い過ぎですが。』


 『ほらほら。自虐的なのは、あなたの欠点ですが、それは長所でもあります。』


 『あなたがた、ぼくの内心を読んだのですか?』


 『そうですね。さきほどのあれは、いわゆる、推測にすぎません。当たりましたでしょう。王女というものは、そうした訓練をしているのです。ホームズさんみたいなものですわ。あたくしたちが、ここに居たら、誰でも、あのように思うでしょう?当たらない方がおかしいのです。』


 『はあ・・・・・』


 『そこで、ちょっとだけ、あなたさまに、お願いがあります。』


 『はあ、なんでしょう。』


 『実は、この宇宙船には、ある種の陰謀が隠されていると思われます。それは、地球人の評判を落とし、銀河連盟からは、締め出し、人類は絶滅させ、地球はいずれ頂く・・・。そういう、陰謀です。』


 『ほんとに? そりゃあ、ひどいな。でも、ぼくに、どうこうと言われても、困りますよ。』


 『別に、何か特別なスパイ行為をしてほしいなんて、申しません。そういう視点がある。ということで、観察してほしいのです。で、ときどき、妹にお話し下さい。あなたさまは、実は、・・・失礼ですが、・・・行動を監視されるような方ではないし、一方で、出入りできる範囲はすごく広いのです。』


 『十分、スパイですね。』


 『お~~~~~~~ほほほほほほほほほ。』


 笑い方も、そっくりである。


 『まあ、そうおっしゃらずに。そのかわり、あなたのことは、十分保護いたしましょう。実際、何が起こっても、おかしくないのです。例えば、この移住船が、全部、または一部破壊されるとか。ですわ。。。。。』


 『いやだなあ。脅かさないでくださいよお。』


 こんどは、二人とも笑ったりしなかった。


 『たしかに。でも、その可能性もあると、計算されました。アニーさんの計算では、いまのところ、0,1パーセントから、0,2パーセント、そういう可能性があるとされました。アニーさんは、正確ですよ。この数値は、かなり危ないです。』


 『はあ。なんでも、すごい、宇宙船とか。』


 『そうですの。それはすごいのです。あたくしが、はるか昔に、作りましたの。この移住船など、一発で、撃沈ですわ。』


 『そっちのほうが、怖いのでは?』


 『冗談ですわ。でも、内容は、事実ですよ。』


 その話の内容からしたら、いましゃべっている方が、ヘレナ第1王女さま、ということになる。


 『誰が、そんな陰謀を企てると?』


 『そこは、まだ、秘密にしておきます。いくらか、間違っている可能性も、小さいですがありますから。まあ、実際、銀河連盟も、一枚岩ではないのです。ただし、あわてる理由はない。太陽系の中では、そのような行為に及ぶことは、ほぼ限りなくゼロに近いと計算されます。』


 『同行している地球政府の偉い方は、知ってるのでしょう?』


 『いいえ。彼らからは、すぐに、漏れてしまいます。おそらくは。』


 『ふう・・・・・ん。あやしい。。。。』


 『まあ、といっても、気にしないでください。普通に見ていてくださればよいのです。危険なことは、しないでください。なにか、異常があれば、妹なり、あたくしなりに、伝えていただければ、それでよいのです。これは、緊急発信機能付きの腕時計です。マツムラ・コーポレーション製造のまあまあ、良い時計ですのよ。ここ、三回押すと、あたくしたちの近い方に、連絡が来ます。特殊な信号ですから、傍受されることは、まずないはずです。』


 最後に、ふたりは、ぼくの両頬に双方からキスをして、室内から、ドアを通さないで、去って行った。


 ぼくは、その本当の真意は、まだまだ、知る由もなかったのだけれども。



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