第28話 『王女様』 その4


 ぼくは、ルイーザ王女の、練習にしても、あまりに素晴らしいとしか言いようがない演奏を聞きながら、ふと考えた。

 

 なにか、おかしいな。


 なんとなく、腑に落ちないのである。


 さっきの話しには、どこか、引っ掛かるような気がする。


 何が、おかしいのか。


 ルイーザ王女は、第2王女様のはずだ。


 ぼくの知る限り、タルレジャ王国の、第1王女と、第2王女には、格段の力の差があるらしい。


 第1王女様は、たしか、王位継承者である。


 しかし、表には全く出てこない国王様が、非常に元気に生きているから、まだ、第1王女のままであるという。


 実務は、第1王女さまが、ほぼ、すべて代行しているらしい。


 天才であるけれど、大変に、溌剌とした性格で、悪く言えば、かなり、おてんば王女様であるとも言われる。


 日本にあって、高校まで在学していた。


 当時、社会は、色々混乱したが、彼女は、『紅バラ組』という、不良少女グループの、組長だったらしいとも噂される。


 さらに、10代から、お酒が大好きで、隠れては、ずいぶん飲んでるらしいという、噂もあった。


 宗教的には、タルレジャ教団の第1の巫女さまであり、教団のナンバー2にあたるが、実質的には、第1王女様が、仕切っているとも言われる。


 一方で、第2王女様は、非常に控えめで、お嬢様を絵に描いたような人らしい。  


 双子の姉には、大変に忠実なのだとか。


 しかし、時に、姉が、あまりに、マナーから外れると、激しく叱責することもあるとかも、聞いたことがある


 言葉遣いも、お嬢様そのものと聞いた。


 なるほど、この、ルイーザさまも、たしかに、お嬢様言葉かもしれないが、なんだか、荒っぽい感じがある。


 それに、この、演奏。


 これは、録音や、ビデオで、見たり(視覚的にも、実に魅力的なのだが。)聞いたりしたところから言うと、なんだか、ちょっと、ルイーザ王女とは、違うような気がする。


 実のところ、見た目の性格だけでは、演奏は推し量れないものだ。


 ぼくの感想では、ルイーザさまのほうが、豪快に弾くのである。


 ヘレナ王女様の演奏は、非常に知的で、繊細で、もっとクールな感じがある。


 今、聴いている演奏は、むしろ、ヘレナ王女様の演奏に思われるのだ。


 直感であって、それ以上の理屈はないが。


 それに、先ほどの話からは、完全お嬢様のルイーザ様とは、なんだか、イメージが違う気がする。


 もっと、自信があり、確信がある。


 あたりをはらう、普通ではない雰囲気が漂っていたような。


 見た目の区別は、全くつかないと聞いていたしな。


 それにしても、凄い演奏だ。


 ぞくぞくする。


 涙もでてしまいそうである。


 第1楽章の第2主題が、こんなに感動的に弾かれたことが、どれだけあったか?


 この副指揮者さまも、確かに素晴らしいと思う。


 ぼくは、最後まで、動けなかったのだ。



 ・・・・・・・・・・・・


 


 


 

 

 


 

 

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