第26話 『王女様』 その2


 この時間の練習は、無事以上の出来に終わった。


 このあと、第2オケの練習がある。


 ぼくは、このあとどうするか。少し考えながら、お手洗いとか、水分補給とかを行った。


 おなかも空いて来たな。


 第2オケですか?


 昔あったプロ野球なら、ファームとか、二軍といったところかな。


 音楽大学でも、器楽専門の学生によるオケと、器楽は副科の学生によるオケがあったりもした。


 それは、聞いて見れば、違いはすぐに判る。


 しかし、この宇宙に派遣されるオケの、『第2』というのは、どういう立場なのだろうか。


 先ほどの、第1オケだって、もし、練習開始時の状態が通常の音だとしたら、その後の演奏は、第2王女様の、もしかして、不可思議な能力が発揮されたのであるならば・・・・・


 と、演奏を聞く前から考えていても、仕方がないか。


 ぼくは、その練習を聞くべきかどうか、まだ、少し考えた。


 というのも、王女様を捕まえたかったからだ。


 でも、捕まえても、なにを、どう、尋ねたらよいのか?


 『あなたは、超能力者ですか・・・?』


 いくらなんでも、バカらしくて、お腹が笑ってしまう。


 『素晴らしかったですね。でも、どうして、あなたが来てから、あんなに、素晴らしくなったのですか?』


 まあ、この方が、ましだろう。


 会場に戻っても、もぞもぞしかけていたぼくの横に、誰かが座った。


 それは、紛れもない、王女様だったのである。


 『あなたが言いたいことは、わかりますよ。』


 そう、すぐに、彼女は言った。


 『まあ、でも、少しこちらの練習も聞いて見てくださいな。』


 『はあ・・それはもう、ぼくは、暇ですから。役立たずだし。』


 『まあ、良くおっしゃいますわ。あれだけの音楽を聴いていただけでも、並ではありませんわ。』

 

 『全部聞いたわけではないですけどね。』


 『もちろん、そうでしょう。書物のようには、速読できないですからね。』


 『いや、速読もできないですよ。』


 『まあ、お気の毒に。』


 王女様は、ぼくを、強烈に見つめながら言った。


 彼女は、本当に、この世で最高に、気の毒だと思ったという雰囲気だったのだ。


 実際、そのように言われたのは、初めてである。


 普通、お気の毒、とは言わないだろう。



 少しだけ高くなっている舞台上には、楽員さんたちが入ってきていた。


 ぼくの資料室にやってきていた男性もいた。


 そう言えば、指揮は誰がするんだろう?


 まったく、考えて無かった。


 副指揮者殿が、また登場するのか?


 そこで、それは、王女様に尋ねた。


 『どなたが、指導なさるのですか。』


 『練習指揮者どの。』


 『はあ。そういう方も、居たんですかあ。』


 『まあね。まだ、見習い君というところですわ。』


 『学生さん?』


 『いえ、そうではないでしょう。彼女は、学生ではない。』


 はああ。


 もちろん、今の時代、そもそも、指揮者と言う職業自体が、ほぼ、成り立たなくなっている。


 『でも、才能があります。』


 やがて、奥の控えから、女性が一人、現れた。


 王女様が、拍手を送ったので、ぼくも見習った。



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