第24話 『クルーたち』 その2
広いメイン・コントロール・ルームには、船長と副長ふたりが揃っていた。
『まあ、ここだけの話しですが。地球人の護送なんて、ほんとはしたくないですよ。』
アポジアトゥーラ副長がつぶやいた。
『それは、この場所では禁句です。』
もう一人の副長である、美しい、『銀河系人類型』アンドロイドのアウフタクト副長が指摘した。
『あなたは、感情に疎いからな。』
『そうですか? あなたは、感情に左右される、と?』
『まあまあ。アポジアくんも、分かって言ってるんだから。でも、ま、そこまでだ。』
『船長は、実際、いかがお考えですか?』
アポジアトゥーラ副長が食い下がった。
『わたしは、仕事を、完遂するだけだよ。すべての乗員が、本船の中では、無事に、楽しく旅ができる様に働くのだ。それだけ。』
『さすが、船長。いや、ピチカート人ですな。』
『そりゃあ、関係ない。副長、注意しておくが・・・』
『わかっております。ここだけの内緒話しですよ。あなたは、クルーの考えを知っておく必要もある。』
『ふううん。いいだろう、聞いておこう。』
『それはそうと・・・地球の月に着いたら、オーケストラの試演がありますが、我々も招待されています。』
アウフタクト副長が言った。
『そうそう。行かないわけにはゆくまい。それに、非常に興味もある。我々は、種族内の会話は、この、身体の発光器官で行う。音楽というものは、まったくない訳ではない。古い時代の伝統文化として、残っている。しかし、地球の場合は、まったく違う。音楽が大変盛んであった。地球滞在時に、ちょっと聞かせてもらったが、あれはすごく、やかましいぞお。慣れが必要だ。しかし、少し慣れると、ただの騒音ではないらしいと思うようになった。きみたちも、面白い体験になるだろう。』
『体験したくないですがね。まあ、大使の話しでは、我々には、別に害はないようですな。しかし、聞くところでは、ヘテロフォニ星人が、まとめて、ぶっ倒れたという話があります。原因は、ある種の音の塊が、毒になったらしい。』
アポジアトゥーラ副長が、バナナのような長い顔を、しかめながら言った。
すると、船長が、頭部を出したり、引っ込めたりしながら答えた。
『ああ、それは知ってる。地球人たちには、ヘテロフォニ人がいる場合は、注意をするように勧告されている。彼らには、特定の音の塊が、猛毒として働くことが分かったんだ。』
『おそろしいことだ。策略が無ければよいが。』
『あなたは、非常に疑心暗鬼になっています。もっと、客観的に考えるべきです。危険は避ける。お互いに、注意する。あらかじめ分かっただけ、非常に利点になります。現場での混乱が避けられるからです。それだけ。もしよければ、ライブラリーがみっつ、設けられています。『地球民族音楽』、『地球大衆音楽』、『地球芸術音楽』、と、いちおう、分割されています。そこならば、さまざまな音楽を聴くことができるようです。わたくしも、一度、休暇日には、行ってみようかと。』
『あなたは、気楽だから。』
『あなたは、気苦しすぎです。』
『まあ、まあ、わかったよ。でも、試演には行く。それが、務めだ、ただし、どっちかには残ってもらう訳だが・・・・・』
すると、アポジアトゥーラ副長が言った。
『わかってますよ。ぼくは、残ってます。』
『そうか、それはいいが、次の本番の時は、君の番になるがなあ・・・・』
『・・・・・・・・・・』
返事がなかった。
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