第19話 『淀んだ地球』


 そのロボット・カーゴさんは、さっそく展望室にぼくを運んだ。


 それなりの人が集まっていた。


 そこには、まだ、広々とした、『地球首都宇宙空港』の景色が広がっていたのだ。


 『まもなく、発進します。』


 そこに、地球標準語による、女声のアナウンスが入ってきた。


 『出発というものは、人間にとっては、なかなか、おつなものでしょう?』


 カーゴさんが言います。


 『カーゴさんは、おつなもの、がわかるんですか?』


 『まあ、分かるかどうかは別として、意味は掴んでおります。ちょっとおしゃれで気がきいていること。面白い味があること。よい気分になれるような状況。』


 『まあ、そうかなあ。説明が上手くできないから、おつなんだ。』


 『そこらあたりのニュアンスは、個人の内部でしか分からないものです。』


 『まあね。』


 そのとき。


 まったく、なんにも感じなかったが、風景が動いたのだ。


 『発進しました。』


 『なんとまあ、簡単な。』


 『地球人の技術は、ここまで来ていませんでしたから。すぐ、大気圏から離脱します。』


 それは、ほんとうに早かったのである。


 ぐんぐん上昇していたのは、わかるけれど、まるで映画の世界にいるようだった。


 『ほんとに、動いてるのかしら?』


 『なんなら、外に出て見ますか?』


 『いえ、いいです。』


 そうして、目に浮かび上がったのは、想像していた地球の姿とは

随分違っていた。


 なんというか、つまり、あまり、青くないのである。


 そうは、見えない。


 なんとなく、くすんだような、灰いろに近い感じがする。


 まあ、地上から見ても、透き通る様な青空というものは、とんと見なくなったから、無理もないのだろう。


 『地球が青いのは、まずは海のせいで、青い光だけが海中深く到達しますし、大気が青色を乱反射させるため、いっそう、青く見えていました。しかし、戦争で地球中が燃えてしまい、また、火山のカルデラ大噴火が、なぜか、複数重なり、いまだに納まりきっていないし。おかげさまで、大量のごみが大気中に残っていましてね。』


 『そのうち、またきれいになるだろう。』


 『まあ、そうですね。首都周辺域だけは、人工環境改善されてましたが、その先は、これからですよ。』


 それでも、地球は地球だしなあ。



 ぼくは、練習会場に向かった。



         ************

 

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