第18話 『練習』その1


 なんだか、やたら懐かしい自宅に、やっと落ち着いた。


 父が建てた家で、かなり古いので、しかも、普通の木造建築であり、あちこち、痛んでいる。


 ただし、以前はなかった、ちょっとした、綺麗なホールが付け足されていて、そこが、ぼくのオフィスと、いうわけだ。


 いまのところ、適当に、レコードや、CDや、LDや、MD、カセットテープ。


 さらに、書籍、楽譜類が投げ出されている。


 これは、整理するだけで、かなり、大変だ。


 もっとも、もともと、整理していなかったが。


 でも、棚類が用意されていて、いくらか、整理し始めているらしき様子があった。


 さらに、そこには、どうやら、ぼくのものではない、身に覚えのない資料も、積み重ねられていた。


 核爆発でも、天変地異でも、消えずに、焼け残ったものなどを、ここに運び込んだらしい。


 ただし、一応は、使えそうなものを選別はしているようだった。


 『開館までは、てこずるなあ。』


 と、のんきに思っていたのが、間違いだった。


 知らないひとが、パラパラと、入ってくる。


 で、勝手に資料を漁っているのだ。


 確かに、玄関には、『Open』の札が掛かっていて、ご丁寧に『いま、昼食中です。資料はご自由にご覧ください。持ち出しは禁止します。』


 と、ある。


 どうやら、バイトの人は、もう仕事を始めていたらしい。


 さて、どうしたものか、と、思っていたら、その人が、帰ってきた。


 『あ、マスターですか。あたし、アルバイトの、エルザです。どうぞよろしく。』


 と、握手を、求めてきた。


 『ああ、あの、ヤマ・シンです。』


 『どうも。あ、たしか、一服したら、すぐ、オケの練習に来てほしいとのことでしたよ。ここは、任せてください。』


 『ああ。こーしーだけ、飲みたいな。』


 『ああ、ご自宅の冷蔵庫に、かんコーヒーがあります。どうぞ。あ、まあ、あなたのものですね。』


 『いやあ、ここは、一旦、接収されたから、誰のものやら。』


 『でも、返却されたようなものですよ。』


 『はあ、ははは。』



 『あのう……………』


 さっきから、資料をまさぐっていた、若い男性が、声をかけてきた。


 『ぼく、第2オケの、ビオラひきです。まあ。二軍ですね。練習は、一軍の後になります。で、この、ホルスト作曲の、『惑星』って、パート譜はもらったけんど、聞いたことなかです。ありますか? 音源?』


 『あはあ。そりゃ、ある、はずですが、まあ、まだ、この状態でして。しかし、第2オケって、聞いてなかったなあ。でも、待って。』


 基本的に、ぼくの持っていたものならば、背中のデザインだけで、中身が判る場合が多い。

 

 『えーと、あれかな。』


 ぼくは、CDの山の中から、一枚を抜き出した。


 『あったり〰️〰️〰️〰️☺️。はい、どうぞ。』


 すると、エルザが言った。


 『さすが、オーナー。あと、やります。では、プレイヤーのご説明をいたします。なお、あなたがどなたで、何をされたかは、自動的に記録されます。』


 視聴用のテーブルは、20台くらい、並んでいた。


 彼女は、使い方を説明している。


 やれやれ、初仕事だな。


 それから、ぼくは、家の中の、古い台所に入って、冷蔵庫の、かんコーヒーを頂き、やがて、カーゴにまた乗った。


 行き先を、言うだけでよい、と、言われていた。


 『ああ、オーケストラの練習会場に。』


 『あい。承知しました。』


 いささか、間の抜けたような、カーゴさんである。


         🌃


 宇宙船が、いつ、発進するのか、ぼくは、それさえ、良くわかっていなかった。


 カーゴの中で、その、カーゴさんが云ったのである。


 『あと、10分で、地球から飛び立ちます。あなた、見たいですか?』


 『え、そりゃ、見たいよ。』


 『あい、了解しました。』



  ・・・・・・・・・・・・・・・


  

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