第17話 『発進、月に』

 

 ぼくは、第三居住区に案内された。


 それは、早い話し、当たり前の、街である。



 一般居住区は、五つに別れているのだそうで、その間の移動も、先ほど使ったカーゴを利用するのだと。


 歩くと、1日がかりでは、済まないかも、と、言われてしまった。


 宇宙船の中というところは、様々な安全対策のために、細かく分断されているのだと。


 『まあ、関所みたいなものです。あえて、居住区はバラバラになっています。各区域の通過には、検問があります。でも、カーゴならば、対応が早いですが、歩くなんて人は、怪しいですからね。いちいち、その都度、チェックされます。』


 だ、そうである。


 なにしろ、今回の乗客の多くは、地球人である。


 戦争好きな、危ない生物だというのが、銀河連盟内での、もっぱらの、噂なんだとか。


 『あなたが、危ないと、言っているのではありませんが、しかし、地球人が、戦争ばかりしてきたのは事実ですから。』


 まあ、反論の余地はない。


 少なくとも、ぼくには、その気はない。


 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 びっくりしたのは、ぼくの、奇跡的に生き残った自宅が、そのまま、移築されていたことだ。


 『住みやすいでしょう。まあ、特別待遇ですよ。ただし、昼間は開放されます。様々な録音や映像を、乗員が利用するためです。


 あなたは、まあ、館長さんというわけですね。』


 それが、ぼくの、仕事というわけなのだ。


 『月曜日は、お休みです。今回、宇宙船内は、地球時間に合わせることに、なりますから。バイトの人が、配置されます。ほんとは、奥さまにしたいのですが、まだ、行方がわからないので。すみません。』


 いや、謝ってもらうことではない。


 悪いのは、戦争した地球全体だから。


 『あ、で、ルイーザさまからの、伝言ですが、本船は、まず、月に立ち寄ります。そこで

、最初のコンサートをやります。まあ、まだ、地球圏内なので、リハーサルみたいなものですが、あなたにも、立ち合ってほしいと。の、ことです。曲は、ホルストさまの、『組曲 惑星』そのほか、です。よろしいですか?』


 もちろん、行きますとも。


 興味しんしんですからね。


 オケ自体は、すでに、ぼくの面接より前から、練習に入っていたが、内容は非公開で、実情は、わからない。


 普通、プロのオーケストラならば、新曲とかで、たとえ、初見に近くても、すぐに、演奏は成り立つ。


 細かいことは、指揮者が決めるが、若い、経験の浅い指揮者なら、オケ側が決めてしまうことだってあり得る。


 指揮の苦手な作曲家は、オケに頼る場合もあるらしい。


 このオーケストラは、未知数である。


 プロ・アマ、混合だから。


 そこが、『売り』、なのだ。



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