第16話 『大型宇宙船アーニーβ』 その2

 『これが、宇宙船の船内かい?』


 ぼくは、いきなりほっぺたを『地球の常識』というブラシで、ずりずりとこすられたような気がした。


 みなさんは、昔の『鉄道連絡船』をご存じだろうか。


 ぼくの両親は、四国の出身だった。


 だから、小さい頃は、時々海を越えて、両親の田舎に行くことがあった。


 おおむかし、である。


 その時代は、まだ橋などはないから、海を渡るのは、大方、連絡船によるのである。


 しかも、トウキョウ方面から行くのは、なかなか大変だったのである。


 なにしろ、大量の人が移動するのである。


 ひとつ前の戦争が、まだ終わったばかりで、多くの人は、あまり豊かではなかった。


 鉄道線路は瀬戸内海側と四国側の玄関口で、海に向かって途切れていたが、それは実は連絡船によって接続されていた。


 つまり、貨物列車はそのまま船に乗せることができたのだ。


 ただし、乗客はいったん汽車から降りて、風呂敷包や、でっかい木箱を背負ったその人々の山が、桟橋を超えて、連絡船に乗り換えるのである。


 当時のことは、蒸気機関車の煙が激しくて、トンネルの中は大変なことになるのと、トウキョウの都電に負けないくらいの人々が、船や汽車に山盛りになっていたことと、客車の中で、向いのおじさんが、美味しそうないかの燻製を食べていたこと(ものすごく高価なものであった。じっと見つめていたが、ひとつも、もらえなかった。)くらいしか覚えていないが、それでも、いくらかの景色が記憶に残っているし、そこがどこだったかは、今でも特定ができる。


 もっとも、この度の世界戦争で、多くは、燃えてしまった。


 で、当時、鉄道連絡船は、子供には非常に巨大に思えたのである。


 まあ、比べる方がどうかしているが、あのでっかい連絡船の乗船口から、船の中に入って行くような、そんな気分にもさせられたのである。


 ただし、この、『移住用大型宇宙船アーニーβ』は、けた外れにでかい。


 船内は、早い話い、巨大な都市や、近郊の住宅地や、山の合間の村が、沢山そのまま収まっている、という風情なのである。


 「全部を見て回るのは、無理でしょうね。でも、落ち着いたら、船内観光バスも出るから、乗ってごらんになりましたら、よろしくてよ。」


 なんと、王女様が、そのまま、ぼくをエスコートしてくれたのである。


 あんなに気分の良い事は、そのときが最初であった。


 王女様というものは、なんだか知らないが、偉い人らしい。


 もっとも、この王女様は、実質的にも、かなり偉い人だったのではある。


 周囲の人々に最敬礼されるのは、むずがゆいものだ。


 もちろん、ぼくが対象なわけではないけれど。


 「じゃあ、わたくしは、仕事があります。あなたは、まずはご自宅におはいりなさい。こちらの、順子さまが、ご案内いたします。」


 グリーンの、しゃれたワンピースの少女・・・・、そう言いたいくらいの年齢に見えた・・・が、出迎えてくれた。


 「よろしくお願いします。あたくしは、アンドロイドです。案内だけでなく、あなたの警備担当もいたします。」


 「はああ。」


 「言っときますが・・・・」


 ルイーザ王女が口をはさんだ。


 「ものすこく、強いから。男子プロレスラー10人くらいが飛び掛かっても、全員片手で放り投げるくらいのパワーがありますよ。お気をつけくださいね。」


 「まあ。王女様ったら。ほほほほほ、大丈夫です。あなたは、守られる側ですよ、では。」


 そこには、小型のカーゴが止めてあった。


 トウキョウ駅の駅前広場あたりを想像してくれたらよい。


 「これで、ご自宅まで、お送りいたします。その後の予定は、それからお伝えいたします。荷物はすでにご自宅に運び込まれていますが、あの、山のようなレコ―ド類は、ご自分で整理していただくべきです。では、参りましょう。」


 ぼくは、促されて、そのブルーのカーゴに乗った。


 それは、車輪がついていない。


 「地球で言うところの、空中自動車とか、エア・カーとかです。ただし、推進力は重力です。空間を滑るのです。」


 「はああ・・・・・。」


 王女様が手を振る中で、そのカーゴは、まさに、滑る様に浮き上がり、びっくりの高速で前進した。



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