第15話 『大型移住船 アーニーβ』
結局のところ、実はこのお二人とお会いすることが、最終試験だなんていうことは、知らされていないことであり、本来の入学試験とかならば、ルール違反だが、これは言って見れば、就職試験みたいなものだから、まあ仕方がない。
王女様は、危機管理長でもあるんだそうである。
要するに、地球人には、理解不能な事態や事件が起こりうる事を前提にしているのだが、なぜ、ルイーザさんなのかは、しろとの分かるはずのものではない。
デラベラリさんは、オケの第2コンサート・マスターであり、ぼくが団員と普通に人間関係を作れるか確認したらしい。
ぼくは、そもそも抗うつ剤を服用していたくらいだから、問題おじいさんである。
けれど、彼らは、ぼくが普通に地球共通言語で会話ができれば、まずはそれで良かったらしい。
そんなに、個人的に仲良しになる必要性は、そもそも、ないんだそうである。
また、一定の成績を上げるように、求められてもいない。
そもそもの僕の仕事は、『一般資料室』の維持管理と、地球人乗組員の音楽的教養の向上と、リラックスの提供。
しかし、それがどういう環境なのかは、宇宙船に入って見なければわからないわけだった。
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地球から飛び立つまでのことは、それ以上書いても、楽しい事はない。
ひとつだけ、この、宇宙人が一夜にして築いたという人口首都は、いかにも神秘的で、興味深い。
地球政府の中枢があり、生き残った地球人の代表と、各銀河連盟加盟惑星などからやってきた、進駐管理員や軍事的な方向の管理員などが、常駐している。
中央委員会は、原則、公開である。
まあ、国会みたいなものだ。
地球型密室秘密政治は、宇宙人たちの批判の矛先に上がっていた。
それでも、まあ、そうもゆかないこともある。
地球人のやり方が、全て良くないとも、言い切れないと、宇宙人も感づいたらしい。
だから、非公開の委員会も、もちろんあるらしい。
ただ、非公開なものは、そもそも、何だか、分からない。
分からないところで決めて、分からないうちにやってしまうのが、実際、地球的政治の核心である。
だから、非公開になるものは、何か?
なにをやってるのかを、かならず公開することになっていた。
今だに、問題になっている大きなひとつは、まだ、放置されているままの核関連の武器や廃棄物、施設の処理方法である。
さまざまな、やっかいなものを、地球人は、それこそ、やまと作り上げて、隠していた。
宇宙人にとっても、放射性物質などは、あまりありがたいものではないらしい。
まあ、とにかく、ぼくが、宇宙船に乗り込む日が来た。
特に、大した手荷物はなく、個人的に使用するグッズと、くまさん、くらいだ。
おっと、あと、大切な楽器と。
くまさんは、ぬいぐるみさんである。
母が作ってくれた、大切な形見であり、お友達だ。
宇宙船は『移住船 アーニーβ』と呼ばれた。
前方後円墳が、ふたつ、お尻側でくっ付いたような形で、たいへんおかしい。
いったい、どっちに向けて飛ぶのだろう。
待機デッキに入ったころから、シベリウスさまの、『交響曲第2番』が、BGMとして鳴っている。
門出にふさわしいと、誰かが考えたのだろう。
ふと、前を見ると、ルイーザがいた。
まったく、他を圧倒する存在感がある。
『いらっしゃませ。さあ、いよいよ、主発ですよ。あなたのために、この曲を鳴らしてみました。いかが?』
『いやあ、いいですね。』
『そう、それは、良かった。はい、記念のプレゼント『アーニーウオッチ』です。まあ、一種の船内活動の必需品です。迷子防止。通信機能。緊急連絡システム。いろいろかねております。』
彼女から、大きすぎない、良い感じの腕時計を受け取った。
それから、ついに、ぼくは、地球と、宇宙船の間を渡った。
シベリウスの『二番』は、第四楽章になだれ込んでゆくのである。
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