第13話 『旅立ち』その9


 『ぼくは、ヘレナさまに、忠告されて、あのまま、王国に残っていたのですよ。だから、核戦争からは、逃れたのです。』


 ハインツ氏は、率直に述べた。


 『いやあ、そこなんですよ。なぜ、あなたの王国だけは、戦争に巻き込まれないのか?あ、聞いちゃダメでしたか?』


 ルイーザ王女は、きりっとした美しい顔立ちだが、お鼻はわりにこじんまりしていて、ちょっと、ラテン系の雰囲気もある。


 聞いた話では、かなり、たくさん混血した結果らしいが、美しいという概念を総合したようなものである。


 だから、双子の姉と、より、深いグレーの肌を持つ妹さんとあわせて、タルレジャ王国の三姉妹として、いまや、大人気である。


 三姉妹グッズが、世界中で、売れまくっていたらしい。


 ただし、核戦争で、買う側は、みな、だめになったが、当事者はぴんぴんしている。


 『これは、あまり、宣伝したくはないですし、批判もあると認識しています。王国には、古来、非常に高度な技術があるのです。つまり、核戦争が起こっていたあいだ、我が王国は、地球には、なかったのです。』


 『なかった。』


 『そう、なかった。』


 『はあ…………… 』


 デラベラリ氏が入ってきた。


 『その、現場にいたぼくとしては、星空が全く違った、としか、言いようがないですな。あれは、よその、宇宙ではないかと、思いますが。』


 『まあ、そうしたものです。王国の領域全体を、地球と、その、移住先と、入れ換えていたのです。移住先には、住民などはいません。すべて、イミテーションなので。』


 デラベラリ氏は、ため息をついた。


 『そこらあたりになると、まったく、わからない。シモンズは、解ったらしいがね。あいつは、ちょっと、つまり、変わってるから。』


 『地球が残した、貴重な天才です。だから、一緒に、保護したのですから。シモンズさまも、宇宙に参ります。仕事は、科学分野ですが。』


 『はあ。ぼくには、係わりのない話ですね。』


 ぼくは、多少、皮肉に言ったかもしれない。


 『いやあ、そうとも、言い切れない。まあ、そこらあたりは、おいおいと。いずれにしても、お二人には、活躍が期待されております。』


 『あなたは、つまり、どういう、お役目なんですか?』


 『そうね。副団長、と、なっております。』


 『はあ、ナンバー・ツーですか。』


 『そうですね。ただし、演奏もいたしますわ。まあ、最も大切な役目は、宇宙人との、コミュニケーションですが。』


 『彼女には、特殊な能力があるんだそうだよ。極端に言えば、全員の安全を確保するお役目さ。たいへんだろう?』


 『姉から、与えられた力なのです。本来は、姉が行くべきですが、さすがに、王国の経営がありますから。……… 王女兼女王なので。』


 なるほど、このシモンズ氏は、好き嫌いが別れそうだな、と、思った。


 なんとはなく、芝居がかっている。


 回りがどう見ようとも、国王は、ワーグナー氏を支持したわけだしな。


 ぼくは、自分は、たくさんの、音源などの資料の、付録だと頭から決めていたから、自分を軽く見ていたが、確かに、行く以上、仕事があるに違いない。


 と、この期に及んで、何するのか、まだ何もわかっていない自分が、いくらか、情けなかった。


 しかし、王女兼女王とは、何だろうか。



 

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