第10話 『旅立ち』その6

 『お食事はいかが?』


 ルイーザ王女が尋ねてきた。


 『ぼくは、たしかに、お腹すいてますよ。あなたは?』


 『賛成。ここのお料理は、おいしいですよ。なんせ、あたくしの実家が経営しておりますから。』


 それは、たしかに、聞いたことがある。


 タルレジャ王国の双子の王女さまは、東京在住の高校生だ。(むかし、そう、だった。)


 国籍も持っていた。


 ぼくには、なぜだかわからないが、二重国籍になっていたらしい。


 世界に冠たる大企業の経営者でもあったという。


 しかし、地球全体が壊滅し、穴ぼこだらけのいま、いまだに、会社が残っているなんて、ありそうにない。


 『トゥオネラの白鳥』は、大きく、不可思議に盛り上がったあと、もう、終わりが近くなっている。


 素晴らしい音楽だ。


 この宇宙から、消えてしまうのは、あまりに勿体ない。


 『あなたが、不思議に思うのはわかりますよ。しかし、王国自体、地球の次元から逸れて存在しているのです。わが王国のみがもつ技術です。銀河連盟が、地球を残す気になった理由のひとつには、それがあったからです。なぜ、愚かな地球に、そのような、技術があるのか。ほしい!』


 『いやあ、そうですよ。ほんと、不思議。』


 『ぶっ。あなた、面白いかたね。あたくしを相手に、なんの、気負いも下心もなくお話ししてくださる方なんて、久し振りだ。』

  

 『下心、って、なんですか?』


 『いいの。気になさらないで。ステーキをたべましょう。火星の名物だった、『ガマダンプラールのジャヤコガニュアン風ステーキ』が、最高ですわ。』


 『な、な、なんですか。火星の名物?』


 『騙されたと思って、お召し上がりなさいませ。いまは、王国で、小規模に生産しております。絶品ですの。』


 はあ。自分では、ああ言うが、やはり、王女さまだよな、と、思った瞬間。


 シベリウスは、静かに消えていった。


 

 


 

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