第7話 『旅立ち』その3
プラスチックのような、それにしては、座り心地が優しい観覧席に座って、しばらく雰囲気を味わった。
地球を離れたら、はたして、またここに戻れるかどうかわからない。
向こう側の宇宙空港から、ほとんど音のしない葉巻型宇宙船が飛び立った。
最近になって聞いた話では、あれは、地球人の発案なのだそうだ。
それを、銀河連盟のデザイナーが気に入り、新型宇宙船になったんだそうである。
ならば、最初にデザインしたのは、だれなんだろう。
と、ばかな想像をしていたら、隣の席に、大変に綺麗な御姉様がやってきて、すとんと、座った。
『どこにゆくんでしょうね?』
『え?』
『あの、宇宙船よ。どこにゆくのかなあ?なんて、考えたの。あなたもでしょう。』
『いや、はい。確かに。』
『良かった。地球人さんね。あたし、ルイーザ。新しいオケの、コンサート・マスターさまなの。まだ、若いけど。と、いうより、大学院生なんだな。ひよっこよね。でも、いまは、貴重な専門家らしい。』
『核爆撃から、それましたか?』
核弾頭からの直撃を免れたひとを、『それた人』などと、社会は呼んでいる。
ぼくも、そうだ。
ただし、放射線の影響は、まだ未知数だ。
『まあね。たまたま、師匠の豪華シェルターに見学に入っていた。』
『はあ、たまたま、ですかあ。』
『ふふふ。面白いかたね。あなたは、なんの仕事?』
『はあ。ライブラリーです。手元にあった、たくさんのレコードなんかの音源と、楽譜や、フルートを手土産に。ただし、アマチュアですよ。今日、オーディションでした。結果はこれから。』
『そうなんだ。フルートもやりたかったなあ。あたし、フルートは、音も出せないわ。すーか、すーか、よ。フルートできる人はうらやましいです。息がそのまま、音楽になる。楽器は?』
『とりあえず、質に取られてます。』
『ああ、あれは、ひどい話よね。でも、あなた、もし、合格したら、晩御飯しませんか? もう、どこかには、帰らないんでしょ。』
『はあ、帰る場所はないですよ。』
『じゃあ、7時に、『センター・モニュメント』で。落ちたときのことは、考えないでいいわ。そのときは、なぐさめてあげるから。』
ルイーザは、さっさと立ち上がって、どこかに行ってしまった。
これは、つまり、デートの約束が成立したというわけなんだろうな。
しかし、ルイーザは、まさに、天才そのものだったのである。
彼女は、ぼくたち、一般応募とは、いささか違うルートから入ってきているらしいが、詳しいことは、わからない。
・・・・・・・・・・・・ 🎻
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