第6話 『旅立ち』その2
100メートルは、16秒6、かかった。
まあ、立派なものよな。
なぜ、100メートル走らされたのか、みな理解できずにいた。
つまり、いっしょに、走ったのは、全員が、スポーツの分野ではない応募者だったらしいからだ。
応募した、内容は、みな様々だった。
男女の区別もなく、いっしょに走らされた。
オーディションは、それで、終わりになったのである。
結果発表は、その日の夕方四時からとされ、それまでの三時間近くは、自由時間とされたので、近くを見学することにした。
ここは、自然の島ではない。
宇宙人が造成した、人工の島だ。
しかも、建物も含め、完成するのに、2日もかからなかったらしい。
地球人側は、あまりの技術の差に、圧倒されたのだそうである。
ところが、暫定首都完成の式典では、宇宙人側が、地球人がやっとこさ編成した小さなオーケストラに、びっくり仰天したらしい。
ハッキリ言って、下手くそだった。
ぼくも、その録音は聞いたが、高校生レベルよりも、高いとは言い難いくらいだったのである。
曲は、精一杯頑張って、ベートーヴェンの『第7交響曲』他を演奏したのだった。
これに、宇宙人たちは、度肝を抜かれたらしい。
この交響曲も、決して、演奏は、易しくはない。
もちろん、寄せ集めのオーケストラも、必死に、演奏したのであろう。
指揮は、なんと、さきほど会ったばかりの、あの、世界最高の指揮者、スワルト・ヴェングラウ氏が振ったのである。
彼や、パスカ・ノーニ氏達が生き残ったのは、まさに、奇跡だったが、多くの優秀な音楽家たちや、オケの楽員たちも、高価な楽器も、貴重な楽譜も、核爆発で、大方、消え去ってしまった。
プロもアマも、あの、核戦争を生き残り、しかも、ちゃんと、音が出る楽器があり、なんとか演奏できる状態だった人を集めるのは、容易ではなかっただろう。
その記念の演奏があったのが、目の前の野外ホールだったのだ。
ベートーヴェン氏の、『交響曲第7番イ長調作品92』は、1813年12月8日に、初演された。
これは、それこそ、戦争負傷兵のための、チャリティー・コンサートだったという。
だから、シュポアさん、モシュレスさんなど、大物音楽家も友情出演していたので、たいへん評判になったといわれる。
激しいリズムを前面に押し出しながらも、印象的な、深い旋律を内包している、21世紀になっても、人気の高い、激しくも、高貴な作品である。
特に、第2楽章は、初演時から人気になり、さっそく、アンコールされたらしい。
すでに、古いものになったが、『未来惑星ザルドス』という、SF映画で、印象的に使われたことがある。
予算が限られた、マニアックな映画ではあったが、ショーン・コネリー氏が主演していた。
当時の制作費は、100万ドルだったそうである。(1974年)
1968年の、『2001年宇宙の旅』は、その、10倍以上の制作費だったようだ。
また、日本でつくられたアニメ『のだめカンタービレ』では、なぜか、第2楽章は出てこなかったような気がするが、おおいに使われたのである。
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