第3話 『オーディション』その3

 これは、ある意味興味深いこと(なんて、言っていられる立場ではないが。)だけれど、マオ・マ氏と、グリーノ・ゼンダー氏は、優しそうにしながら、実際には、質問のレベルを高めたことになる。


 ゼンダー氏の、音楽のあり方にも、通じる気がするのだ。


 神様たちを、そんな風に見ているのは、不謹慎なことだとは思うけれど、客観的で、第三者的視点を保ってしまうのは、ぼくの悪いところであり、長所でもある。


 上司からすると、やなやつであるが、使いようによっては、役にもたつ。(かもしれない。)


 部下が言うこときなかいと思ったら、叱る前に、言うこと聞かせるテクニックを開発すべきである。


 脅しなんて、もってのほかだ。


 もしも、本人なりに、必死に、一生懸命にやっている部下を、一方的に叱るのは、反発を招くだけなのだ。


 さらに、遠回しに、やめて欲しいなんて、詐欺みたいなものだ。


 上司が部下を選ぶのと同時に、部下もそれぞれ、上司を選ぶものだ。


 また、面接という場は、応募者が、企業などを、選ぶ場所でもある。


 ま、もっとも、ぼくは、上司には向かないのである。


 なぜならば、ぼくが尊敬できる上司の幅は広くないからだ。


 自分は、その域に達しない。


 さらに、今は、圧倒的に、採用側が強い立場にある。


 ただし、宇宙人からの求人も、徐々に増えてはきているから、地球人だけに頼る時代は、もう、終わったと言えるだろう。


 このさきは、労働者にとっては、まんざら、悪くない世の中になるのかもしれない。


 地球人のプライドが、どうこうとなると、それは、個人の考え方だけれども。


 さて、で、ほくは、回答しなければならない訳だ。


 しかるに、こうした質問が来ることは、もちろん想定されたのだが、はたと考えたのは、相手のことだ。


 なにしろ、地球人ではない。


 おまけに、地球人に対して、懐疑的な宇宙人も多いと聞く。


 地球の音楽に対して、どういう反応をするのかなんて、まったくわからない。


 試験をする側は、銀河連盟から、ある程度の情報を得ているに違いないが、ぼくたちは、情報を得る手段はまったくないのだから、試験勉強のしようも無かったわけだ。


 それは、彼らだって分かっている。


 では、なにを、確かめようとするのだろうか。


 ぼくは、今日に至るまで、ずっとそこを考えていたのだ。


 単なる、作品の紹介だけなら、自動音声で十分だろう。


 すると、スワルト・ヴェングラー博士が、一枚の紙を、進行役に渡した。


 名高いアナウンサーさんは、それを読んだのち、ぼくに渡したのである。


 『条件。聴衆は、オスティナート星人の一般の人々。地球人には懐疑的な立場が強い。非常に正義感が強く、抜群の技術力と自制心を持ち、戦争は文明時代以降はしたことがなく、暴力は恥である。争いになると、話し合いで解決するが、けりがつかない場合は、古来から伝わる『ゲーム』で決める。審判は、『マザー・コンピューター・アンリ』である。音楽を芸術とする習慣はなく、会話は通常、額にある彩光と呼ばれる光媒体により、行うが、非常に早く、地球人の100倍の速度で会話できる。ただし、音声言語も必要により使い、聴覚は地球人よりもかなり優れている。部族によっては、まれに、歌を歌う場合がある。地球の音楽に対して、酒酔いのような状態になることがあることが分かっていて、陽気になると、やや、やかましいが、暴力的にはならない。』


 なんだこれは。

  

 この条件で、ホルストさんの『惑星』や、べー先生の『第9交響曲』を解説せよとな。


 手持ち資料は無しだ。


 なかなか、シビアな条件である。


 『あの、質問してよろしいですか?』


 『どうぞ。ただし、簡潔に。』


 スワルト・ヴェングラー博士が直に答えた。


 『たとえば、地球で、実際にシミュレーションしたことは、あるのでしょうか?』


 『ある。ただし、ホルストさんではない。モーツァルトさんと、ヨーロッパや、アジアなどの、各種民俗音楽を使った。しかも、被験者は、地球に理解の深い、教養ある、歌を歌ったことがある、オスティナート人だった。』


 『なるほど。』


 考えていたら、どうにもならない。


 ぼくは、覚悟を決めて、話し始めたのである。

 


         🎤


  

 


  


 

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