11 竜魂の巫女
「この野郎、龍見を離しやがれ!」
囚われた龍見を救うべく魔力と輝力を右手に集めるが、その力は明らかに先ほどまでより弱くなっている。人間状態では力を完全に発揮できない事に加えてルカ自身の魔力も枯渇しかけていた。ほぼ無限に輝石から力を受けられる地球人と違い竜族であるルカはそれほどその力の恩恵に預かることは出来ない。だから自分の魔力と輝力を織り交ぜて攻撃をしてきたのだが連戦で限界が近づきつつあった。
それでもルカは諦めず力を集める。ショウも龍見に敵の意識が向いた隙に接近を試みるが距離が遠く間に合いそうにない。
「くそっ……うお!?」
左手で額の汗を拭ったルカの真上を白い塊が猛スピードで通過していった。その衝撃で体が揺れ髪が意志を持っているかのように荒れ狂う。
その白い塊は吸い込まれるように大口を開けた『偽王』の顔面にぶち当たり顔面を陥没させた。
「零距離。もらいましたよ」
胴体から格納していた細い手足を伸ばし白い塊が頭のない歪な人型形態になる。その姿はショウとルカにとってはよく見知ったものだ。
『ヴァイシュ!?』
「シャインブラスターマキシマム、発射!」
ヴァイシュの腹部から発射された光の奔流が『偽王』の顔面、胴体を貫き眼下の『方舟』をも砕いた。
シャインブラスターによる攻撃で幽鬼の腕(足?)の根元も切断され僅かに拘束が緩んだ隙を逃さず龍見は両腕にあらん限りの力を込めて氷のように冷たい手を引き剥がそうとする。しかし本体から離れてもある程度の独立行動が出来る手は残された力で抵抗をしてくる。
「この、気色悪いから離れなさいよ!」
「シールドバッシュ!」
ようやく合流したショウが片方の手を盾で打ち払い、ようやく戒めから逃れた龍見は全力で最後まで自分を掴んでいた手に大戦斧を振り下ろし破壊する。
「オラッ、これでも喰らいやがれ!」
ルカの右手から放たれた雷の光線がショウに弾き飛ばされた手を貫き粉々にした。ヴァイシュの攻撃で大ダメージを受け竜魔術を維持できなくなったのか、今まで移動を阻害していた竜巻が消えていた。
龍見とショウ、そして少々動きがぎこちないヴァイシュがルカのいる場所まで後退する。
「核を破壊出来ればと思ったのですが……」
「いや、十分な活躍だったよ。で、一体どうやってここまで来たんだ?」
「投げてもらいました」
『は?』
非常に簡潔に意味不明な事を言うヴァイシュに3人が同時に同じ言葉を発した。それで説明不足だと分かったのかヴァイシュは自身の言葉を補足した。
「リョウさんに投げてもらったんですよ。いや、さすが勇者ギルドで4人しかいない百人隊長です。まさかピッチャーの才能がおありだとは……」
ヴァイシュの指さす方向に微かに巨大な白毛の獣人が立っている。ショウたちは知る由もないが、
「え~と……いや、もういい。その話は後だ。それよりもアイツをどうにかしないと。誰かアイツの核を見つけたか?」
体のどこかにある核を見つけて破壊する、それが喰らうモノとの戦いに決着をつける手っ取り早い方法だ。だから如何に核を早く見つけるかが勝負の分かれ目なのだが、ルカもヴァイシュも「見つけられなかった」と答えた。
今回に関しては龍見が『支配の力』を取り出すためにも破壊は無理でも幾らかでもダメージを与えられればとも思ったのだが――。
「俺もだよ。くそっ、あんな体が大きいなら核も大きいはずなのに」
「あの、その事で話があるんだけどいいかな?」
「何か気づいたのかい?」
ショウに頷いてから龍見は『支配の力』の引きあう力を利用して力の出所を探った事を話した。
「やるじゃねえか。んで、核はどこにあるんだ?」
「それが……下からなの」
言葉の意味が一瞬呑み込めなかったショウとルカだったがその意味をすぐに悟ったのは経験によるものだろう。
「なるほど、
「……そうだよ、アレは後から作られたんだ。最初から本体は大地そのものだったんだ!」
ずっと竜の姿をしている敵と戦い続けていたせいで大きな竜=ボスと思い込んでしまった自分の浅はかさにショウは悔しさに手を震わせるが、すぐに気持ちを切り替え、どうすれば倒せるかを検討し始めた。
「なら核の場所は幸原さんは把握できているのかい?」
「大まかの位置は。ただ場所が地中深くにあるみたいで……」
「ヴァイシュ、さっきのもう1発撃てるか?」
「申し訳ありませんが、先ほどのでほぼエネルギーを使い果たしてしまいました」
「ルカも限界だしな。……一旦引くしかないか。俺が殿に――」
話している間にも破壊された『偽王』の体が着々と再生してきている。疲労と故障で動きが鈍いルカとヴァイシュを逃がすためには防御に長けた自分が残るしかないとショウが覚悟を決める。
「ルカとヴァイシュは幸原さんを……」
「待って!」
思わずショウの言葉を止めるが龍見は次に言うべき言葉が思いつかない。一刻も早く『支配の力』を使わせるのを止めさせなければならないのに自分にはその力がない。
あと一歩、もう一押しできる力があれば。
そう思った瞬間、龍見の意識に誰かが囁いた。
(あなたはもう力を得ているのよ。あとはそれを信じるだけ。忘れないで、私は常にあなたと共にある事を)
(もう泣きごとを言うのか?我を倒した者が情けない事を言うな!)
「幸原さん、大丈夫かい!?」
「大丈夫、ちょっと怒られただけだから。それより皆、私に力を貸して欲しいの」
「力と言っても……」
「いいじゃねえか。オレは手伝うぜ。このままコケにされて逃げ帰れるか!」
「私も大したことは出来ませんが力をお貸ししますよ」
「おい……はぁ、勝算はあるのかい?」
「勝つわ、絶対に」
迷いも見せず言い切る龍見にショウは説得を諦めた。いや、龍見の力強い言葉を信じてみたくなったのだ。
「よし、それで俺たちはどう動けばいい?」
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