12 聖龍顕現
3人を残し龍見が地面に埋まる核を目指し急降下する。
その動きを察知して半壊状態の『偽王』が龍見の前に立ち塞がる。更にチャンスと見たのか小型の『ドラゴン』も生み出し龍見を包囲しようと展開する。
(やっぱり来たわね)
小型のワイバーンに似た『ドラゴン』は予想外だったが、それほど問題はない。むしろ相手に持ち札を一つ切らせたと考えれば悪い結果ではないと言える。
(古間くんの言う通り、
「あいつらは極上のエサを前にして我慢できるような忍耐は持っていない」というショウの言葉通り喰らうモノたちは全力で龍見を狙ってきている。
向かってくる『ドラゴン』を叩き斬り、ルカの術の効果が切れ再び見えにくくなった腕部と脚部から伸びる幽鬼の腕を龍見は急上昇からの旋回で避けていく。
(うん、見える!)
自らの中にある力を知覚した時、龍見の感覚はそれまでと違う世界を感じ取れるようになっていた。その瞳はみえざる物を見通し、その肌は僅かな空気の流れをも感じ取れるようになっていた。それに今まで龍見が知覚した事のない魔力も感じ取れるようになり、もはや幽鬼の腕は龍見にとって障害ではなくなっていた。
風に乗り、魔力の流れを読み龍見は敵の群れの中を踊る様に飛び回り翻弄する。何体もの『ドラゴン』を倒しいき、戦いは龍見のペースで進んでいっているように見える。
しかし、『方舟』からは続々と新手が生まれ『偽王』は龍見の前に壁として立ち塞がり続ける。見た目は鈍重そうだが黒い炎の翼の力か、動きは早くとにかく龍見を徹底的にマークしている。
(どうあっても私を先に行かせないつもりね。けど……!)
幽鬼の腕を叩き斬り、なおも食いついてくる手を斧の刃で受け止めたまま体を回転、遠心力を乗せて3方から来る残りの手に叩きつけるようにしてぶつけ全て破壊する。
そのタイミングで龍見の待ち望んでいた物が来た。
龍見の傍に5色のオーブが彼女を守る様に周囲を囲む。それは準備が整ったというショウからの合図だった。
「さぁ、決着をつけるわよ!」
自らに気合を入れるように叫ぶとオーブを引き連れ四肢を失った『偽王』に突撃する。今まで自分を避けるような動きばかりしていた龍見の急な行動に対応できないのか、はたまた自分の体を壁にして龍見を阻むつもりなのか。
「アンタに用はないのよ!輝石よ、私に力を!」
龍見の強い願いを受け白い鎧、その胸の中央にある輝石が輝きを増す。
「貫け、ドラゴンダイブ!」
5色のオーブに守られ、一筋の光となった龍見の体がオーブを伴い『偽王』の腹を突き破り、ついに『方舟』に接近する。
「ブレイクインパクト!」
体を縦に回転させ勢いを乗せて放たれた大戦斧が『方舟』の地面を陥没させ深くに隠れていた核を遂に白日の下に晒す。だが――。
「GUUUUUUUUUUUUUUOOOOOOOOOO!」
大地が震え咆哮とも地鳴りともつかない音を立てて地面が急速に元に戻っていく。これが『支配の力』によって行われる回復であることは間違いない。
そして腹に穴が開いた状態のまま背後から『偽王』が接近していた。その気配に気づいた龍見が急上昇して離脱する。『方舟』の表面に大戦斧を突き刺したまま――。
「狙いはついてるよな!?」
「ええ、完璧に。ですから体を揺するのは止めてもらえませんか、ルカ?」
「頼むぞ、ヴァイシュ!」
腹部を開き砲を晒した状態のヴァイシュを先頭に左後ろにルカ、右後ろに盾を背中に背負ったショウがいた。ショウの輝力を纏った左手はヴァイシュの背中に当てられ、その力をヴァイシュに送っていた。
龍見に求められた事。それは最大火力で核がある地点を狙撃する事だった。その為にショウの持つ輝力をヴァイシュに送り最大火力のシャインブラスターマキシマムを叩き込む準備をしていた。龍見が単騎で囮になったのはその時間を稼ぐためである。
しかし問題はもう一つあった。龍見以外には核がある正確な場所は分からない事だ。だがそれにも龍見はある方法で印をつけると言い、そして見事に実行してのけた。
龍見の大戦斧が放つ輝力を目印にヴァイシュが狙いを定め、そして3人の力を合わせた一撃が今放たれる!
「ターゲットインサイト、シャインブラスターマキシマム発射します!」
『ぶち抜けっ!』
最大火力で発射された光は途中にいた『偽王』を完全に消滅させ龍見の大戦斧を中心にして直径1キロのクレーターを生み出した。そして、その先にはひび割れた巨大な核が脈動している。普通の喰らうモノであるならその傷から今までに蓄えた力が漏れ出し消滅へと向かうのだが、『方舟』は『支配の力』を使いヒビが入った場所を瞬時に回復しようとする。
「させないわよ!」
もうもうと立ち上る土煙から飛び出してきた龍見が拳を握りしめ全力をもって核のヒビに叩きつけた。その衝撃に耐えられず核の表面が砕け龍見の拳が核に埋まる。その手にドロリとした感触が纏わりつき恐ろしく不愉快でおぞましい。だが目的を果たすまでは手を離すことは出来ない。体中から嫌な汗が流れている事を自覚しながら龍見は自分の中にある『支配の力』に命ずる。
「力よ、我が元へ戻れ!」
『方舟』に呑み込まれ、その一部となっていた『支配の力』が遂にその拘束を解き龍見の手を通して回収された。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOO!!!」
核から発せられた意味不明な怪音に連動して『方舟』の地表に無数の『ドラゴン』が生成される。喰らうモノの力への執着は凄まじい。上空に逃れようとする龍見に全ての『ドラゴン』が腕を向け翼を広げる。この数を相手にするのは今の龍見たちには無理だろう。
けれど、龍見は最初から逃げる気はなかった。
無数の敵を相手にするのは無理でも、1つの核を破壊するなら出来るはずだ。
「これ以上ラーたちの尊厳を汚させはしない!聖龍の名のもとにあなたを裁く!」
龍見の体が光り輝き膨れ上がる。その光の中から現れたモノを見てルカは絶句する。ラーとは違う出自だが、彼女もまた龍の王族。全ての竜族の頂点に立つ伝説の龍神は伝え聞いていた。
「嘘だろ。まさか聖龍神様……なのか?」
輝力で変身する能力を持つ者がいるのは知っている。けれど、ルカはアレはそんなのではないと本能で分かった。そして以前龍見の中に2つの存在がいる事は分かっていた。だがそれが伝説の存在、しかもそれが神だなんて予想できるはずもない。ルカは平伏したくなる本能をなんとか押さえつけながら無理に眠っている神を起こす真似をしなかった自分を褒めてやりたかった。
龍見、いや聖龍リ・ディーナの額にある第3の目、天眼がゆっくりと開く。
「オオオオオオ~」
まるで歌うように響く咆哮を聞き、『方舟』から生まれた全ての喰らうモノが動きを止める。喰らうモノは喰らったモノの能力や特性を奪う。しかし、その中には喰らうモノにとって弱点になる物も含まれる。
全ての竜族には明確な序列が存在する。序列が上の存在に対して竜族は絶対的な服従を強いられる。それは本能に刻み込まれた呪いとも言える。そして、その呪いは多くの覇龍を喰らった『方舟』とその眷属にも強く刻み込まれていた。
だから龍神の咆哮、「止まれ」という命令に逆らう事は出来ない。それは竜の姿をしていない『方舟』も同様だ。
全ての眷属の動きを封じられ、弱点の核を守る事も出来ないこの瞬間に龍見は全てを賭けた。
かつて聖龍が暴れ回る他の2柱の龍神を一撃で倒したという究極のブレス。
その名は――。
「
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