10 偽りの王

 「オーブ展開!」

 「しゃらくせえ!」


 ショウがオーブを展開し巨大な力場を発生させ礫を防ぐ。その隙にルカが上昇し雷のブレスで攻撃を仕掛けるが『偽王』の山のように大きな巨体はその攻撃を正面から受けとめる。


 「くそ、土属性の相手に雷は効きづらいか!」

 「ゲームの話だろ、それは!単純に向こうの防御力が高いだけだ」

 「古間くん、左右から来る!」


 ルカの攻撃を受けても無傷の『偽王』が両腕を左右に伸ばし力場を迂回するようにして龍見を狙ってくる。


 「やっぱり私狙いね!」


 向かってくる右腕をスレスレで避け、先ほどのショウと同じ要領で叩き斬る。間髪入れずに手を広げて向かってくるがこれも避ける。だが――。


 「幸原さん、そのまま下へ!」

 「!」


 ショウの意図が分からないまま龍見が高度を下げると入れ替わりにショウが龍見の背後から迫ってきていた千切れた右手に槍を突き立てるが、その一撃は手の硬い皮膚に防がれた。


 「こいつ、手だけ異常に硬いのか!」


 龍見の攻撃を防げたのもこの硬さがあったからだろう。貫くのを無理と判断しショウは槍を引き代わりに盾を突き出す。金属同士がぶつかる音を立て透明な手がショウを張り飛ばした。


 「何やってんだ!」

 「ルカ、危ない!」


 軌道を変えてUターンして来た左手を躱した龍見がルカに警告する。その声でルカが透明の腕に気を取られている僅かな間に『偽王』は次の攻撃、口に紅い光を蓄えていた。

 僅かに顔を上に反らした先にいるのはルカだ。


 「ちっ、変身!」


 ルカの体が煙に覆われ、その中心を黒いブレスが射貫く。だが、龍見が想像していたような爆発は起こらずブレスは空に消えていった。代わりに煙の下側が人間化したルカが一糸まとわぬ姿で落下してくる。避けられないと判断したルカは咄嗟に人間形態に変身し攻撃をかわしたのだ。頭の左右にお団子状に纏めていた髪は解け上手い具合に体の重要な個所を隠している。


 「ルカ!」

 「馬鹿、前を見ろ!」


 ルカの無事を喜びつつ、裸でいる事に驚く龍見を捕まえようと執拗に左手、そして再生した右手が追ってくる。


 (こいつも分かってるんだ。私が死ねば『支配の力』が失われる事に)


 だからこそ龍見を生かしたまま捕えることに固執しているのだろう。逆に言えば龍見には本気で攻撃できないという事である。


 「『風、剣』!」


 龍見が放った風の刃は『偽王』の黒い翼が起こした風に相殺される。

 弾き飛ばされたショウが下から『偽王』に迫るが、突如発生した竜巻に行く手を阻まれてしまう。

 

 「これはラーが得意な竜巻を起こす術!詠唱も無しで5つも同時に発生させるなんて本物よりスゴイことやってるじゃない!」

 

 1本の竜巻に行く手を塞がれた龍見に再び幽鬼の腕が迫る。上に逃れようとしたが竜巻が起こす風の流れに一瞬だけ、しかし致命的な遅れがでてしまった。

 

 「オレを舐めるなぁ!雷爪撃らいそうげき!」

 「神秘の盾よ。仲間を守れ!」


 腕全体に雷を纏ったルカが両手の爪で幽鬼の左腕を上から引き裂く。同時に龍見と幽鬼の右腕の間に5つのオーブが力場の壁を作り行く手を阻んだ。腕から切り離され失速した左手を龍見が大戦斧を叩きつけると硬い音を立てて手にひびが入り砕け散った。


 「ありがとう、2人とも!」

 「おうよ!」


 龍見の近くに来たルカが不敵な笑みを浮かべ、下にいるショウがサムズアップして応える。だがルカは既に肩で息をしていて額に玉のような汗をかいている。ルカが小さくなった事で脅威の対象をショウに定めたのか魔術のような物で集中的に攻撃を加え始めた。

 龍見たちが未だに何ら友好的な一打も加えられていないのに対し向こうは確実に龍見たちの体力を奪っている。

 

 「私が、私が何とかしないと……!」

 「おい、一人で突っ込むな!」


 腕の動きが抑えられ、本体の意識はショウに向いている。ならば自分はフリーで動ける。そう判断し龍見は全速力で不規則に動き回る竜巻を避け大戦斧に力を集める。


 (頭、胸、腹。狙うのは……!)


 ここに来るまでの間にショウから喰らうモノについての簡単な情報を得ていた龍見は核がありそうな場所を探すが見た目では分からない。


 (そうだ。『支配の力』を使えば!)


 『支配の力』の引き合う力を強く作用させて力の出所を探知する事を思いつき龍見は移動しながら即座に実行する。


 (力は……えっ、どういう事!?)


 自分の感覚が示すことの意味が分からず困惑する龍見の視界の隅で何かが揺らめいた。動揺さえしていなければ避けられた攻撃である。しかし気づいた時には龍見の体がさっきよりもがっちりと透明な2本の手に掴まれてしまった。いや、手というのは少し違うかもしれない。なぜなら龍見を掴んでいる物は『偽王』の脚部から伸びていたからだ。

 始めから仕込んでいたのか、それとも龍見の接近に応じて生やしたのか、どちらにせよ見えざる手に掴まれた龍見が『偽王』の開いた口へと連れていかれる。

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