9 元凶との対峙

 赤と黒。二つの力の激突で生まれたエネルギーの余波で逃げ遅れた『ドラゴン』たちが消し飛ぶ。前線にいた勇者たちも各々が防御に徹し勝負の行く末を見守る。

 そして拮抗状態は崩れた。

 赤い光ブレイズノヴァが黒のブレスを切り裂き元凶に一撃を加えんと迫る。


 「オオオオオオッ!」


 竜の咆哮と共に『方舟』は瞬時に防御態勢をとる。

 今までに勇者たちの攻撃を弱めるガスが大地から噴出され、大地に生えた2本の腕を交差する。

 確かに今まで黒いガスは大きな効果を上げていた。しかしブレイズノヴァはそのガスを受けてなお力を失わず巨大な腕が強大なエネルギーで表面が削られ内部の骨格が露わになる。しかし異様な再生速度で腕を再生させ攻撃を防ぎ切ろうとする。その試みは成功する、かと思われたが……。


 「邪魔だああああっ!」


 ブレイズノヴァの光の中を泳いでショウのオーブに守られたルカが骨だけになった腕に頭から体当たりして砕き『方舟』の中心、大地に繋がる偽りの女王、『偽王ぎおう』へ肉薄する。

 この状況を作り出す。それがギルドが立てた作戦の目的だった。

 輝力を用いた攻撃は影響を及ぼす対象を指定することが出来る。その特性を生かしブレイズノヴァを攻撃だけでなく『偽王』へ続く道とする。その無茶な作戦は功を奏し龍見、ショウ、ルカの3人は遂に敵に王手をかけた。

 眷属である『ドラゴン』たちは地球との境界線である前線に集中的に出現させていたため『偽王』の周りには他の喰らうモノの姿はない。


 「貰った!」


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。千載一遇のチャンスにルカから飛び降りた龍見が『偽王』に向かっていく。今こうしている間にも『支配の力』を巡る綱引きが龍見と『偽王』の間で行われている。『支配の力』自体にも1つに戻ろうという意志があり、力の大部分を持っている龍見の方に集束しようとしている。だが『偽王』はその干渉を妨げ、逆に龍見の力を奪おうとしてくる。

 この均衡を崩すには『偽王』を破壊し干渉を弱める必要がある。

 そして胴体と頭しかない『偽王』に龍見の大戦斧が振り下ろされる。避ける事も防ぐことも出来ない一撃が突然見えない壁に当たったかのように弾き返されてしまった。


 「えっ!?」

 「危ない、避けるんだ!」


 だがショウの指示がかえって龍見の判断を遅らせてしまった。何を避ければいいのか考え動きが止まったところに見えない何かに龍見は体が掴まれてしまった。そこに更に圧力が加わり龍見の体が悲鳴を上げる。


 「幸原さんを離せ!」


 龍見を救うべく接近するショウのオーブが輝き強固なバリアとなって『女王』の不可視の攻撃を防ぐ。


 「ちっ、ふざけた仕込みをしやがって!姿を見せてみろ!」


 ルカの7つの目、その最上段にある真眼から光が放たれ『偽王』の本当の姿が暴かれる。

 不可視の攻撃。種を明かせば他愛もない物だった。

 

 「透明な、腕!?」

 「なるほどな。体が大きい割にはセコイ手を使うもんだ。幸原さんの攻撃が防がれた時に空間が揺らめいているから何かあるかと思ったんだけど」


 それは竜のではなく人間の物に形が似ていた。その腕は異様に長い割には肉付きが薄く、見えないという特性と相まって幽鬼のようにも思えた。

 龍見を掴んでいるのは左腕、そして手のひらから刃を生やした右腕はショウをそれぞれ押さえつけている。龍見の攻撃を防いだのはこの右腕だったのだろう。


 「見えちまえば、こっちのもんだ!」


 長い体をしならせ縦に振り下ろされたルカの尾が右腕を打ち下に落ちた瞬間にショウが龍見を捕らえている左腕に槍を突き出した。


 「喰らえ、クラッシュチャージ!」


 光に包まれ速度を上げたショウの体が左腕を粉砕する。姿が見えないだけで腕自体は大して防御力はないようだ。腕が崩れ力が緩んだ指を翼で弾き飛ばし龍見も空へ一旦逃げた。

 

 「ォォォォォオオオオオオオオ!」


 獲物に逃げられた事に激怒したのか『偽王』が吠える。

 背中の翼があるべき場所から黒い炎が噴き出し、それが翼の形をとる。

 大地がひび割れ『偽王』の体が宙に浮かびあがる。脚部のない体より長い透けている腕を垂れ下げて血のように紅い瞳はただ龍見だけを捉えて離さない。


 「なんなの、こいつ!?」

 「これが本物の喰らうモノさ。奪った命を弄ぶ俺たちの敵だ」

 「雑魚を出さずにオレらとやり合うつもりらしいな」

 「どんな攻撃をしてくるか分からない。2人とも注意してくれ」

 

 ゆっくりと長い腕をしならせて『偽王』が両手を3人に向ける。手のひらが熱せられたようにボコボコと粟立ち散弾のように発射された礫が勇者たちに襲い掛かった。

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