8 活路を開け!

 「噓でしょ?なんで単独で次元移動できる船が存在するの!?」


 なんとか先生の結界まで辿り着いたイルマが空を見上げ叫んだ。イルマだけでなくゼスカルとマルフォートも口を開けて呆気に取られていた。

 異世界への転移にはそれなりの設備と莫大な魔力を必要とする。世界は違えどそれが彼女たちの共通認識だった。なのにその常識が通用しない物が現れたのだから無理もない。


 『別にそれほど驚くこともあるまい。単独の転移なら喰らうモノだってしておるしお主もしたではないか』

 「それはそうですけど、でもアレは人の手で作られたものですよね?」

 『そうじゃな。あれは勇者が輝力で作った物ではない。もっとも動かしておるのは勇者ではあるのじゃが』

 「おい、アレは一体誰が作ったんだ?」


 イルマに次いでゼスカルも先生に質問をするが。


 『アレについてはワシも知らん。まぁ世界は無数にあるのじゃ。中にはあんなものを作れる生命体もいるじゃろ』

 「軽いですね……」

 『ふぉふぉふぉ。世界を繋げるというのは恩恵もあるが危険もあるのじゃよ。ワシらには及びもつかない文明を築く者や喰らうモノといった敵に出会う事もある。お主らのトップにいる者たちにもよく言って聞かせておくのじゃな。自分らが一番優れているなどと思いあがっておると天罰を喰らうことになると』


 先生の言葉に頷く事も出来ずにいるイルマとゼスカルと違いマルフォートは頭上に浮かぶ銀色の船に対してカメラを向けシャッターを切り続けていた。



 ≪……以上が作戦となります。何か質問はありますか?≫

 「いや、質問はないけど無茶な方法だな」

 「その方法で大丈夫なの?」


 オペレーターの説明に呆れるショウに龍見が不安そうな顔をする。


 「問題があろうとなかろうとやるしかないだろ。少なくともここでウダウダやっているよりはマシだ」

 「……うん、そうだね。時間をかければ向こうの世界が完全に滅びちゃう。やるしかない!」

 ≪艦首展開。エネルギ―チャージ完了!皆さん準備はいいですか?≫

 「よし、お前らオレに乗れ!」

 

 ブレイズアークからの通信を受けてショウと龍見がルカの背に掴まる。


 「私たちは邪魔が来ないように援護に入るよ」

 「ご武運をお祈りします!」


 魔女と青いロボットが二手に分かれ龍見目指して飛んでくる『ドラゴン』の迎撃に向かう。


 ≪報告!『方舟アーク』から巨大なエネルギー反応!≫

 

 オペレータからの報告に慌てる事無くブレイズアークのブリッジ、その一段高い席に座る齢12歳の船長、神林理沙かんばやしりさが姉の神林茉莉かんばやしまつりに近づく敵の迎撃を頼む。


 「お姉ちゃん、副砲と対空砲をお願いしてもいい?」

 「任せなさい!理沙はあの3人の面倒を見てあげて」


 迫りくる『ドラゴン』に対しブレイズアークは船体に砲台をハリネズミのようにさせ1匹たりとも近づけない。ブレイズアーク自体は武装はそれほど多く積まれていないが理沙の輝力で武装を臨機応変に作り出すことであらゆる敵に対処することが出来る。

 『ドラゴン』が砲火をかいくぐり攻撃の少ない船体の下に潜り込むが、それに対応するための対空砲が船体下部に出現。その攻撃で『ドラゴン』は体がバラバラに吹き飛ばされ消えていく。

 手元の水晶球のような物にてを当てるだけで茉莉の思考を読み取り瞬時にブレイズアークは反応する。

 

 「凄い!」

 「さすがだな」

 ≪3人とも準備はいいですか?≫


 感嘆する龍見とショウはスピーカーから聞こえた理沙の声に頷く。


 「こっちはいつでもいいぜ!さっさと始めようぜ!」

 ≪分かりました。射線上にいる人は退避してください!安全装置解除。艦首完全開放!≫


 ブレイズアークの艦首が開き中からせり出してきた大型砲塔に光が収束していく。何かを察知した『ドラゴン』が接近を試みるも集められた力が発する波動を浴びただけで体が崩壊し消滅させられる。


 ≪エネルギー集束完了。照準セット、……ブレイズノヴァ発射!≫

 「オオオオオオオオッ!」


 ブレイズアークから赤光が迸ると同時に彼方から地響きのような咆哮が轟き大地から生えた巨大な『ドラゴン』から黒光が放たれた。

 

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