9 竜と人
「どうした、もう終わりか?」
対峙する女王とショウ。だがその姿は対称的な物だった。
全くの無傷の女王に対してショウの方は満身創痍で片膝をつき肩で息をしていた。
戦いの内容自体は決してショウが劣っていたわけではない。むしろ体格差を考えれば勝っていたと言っても過言ではない。
しかしこの精神世界では女王の力は無尽蔵に供給され振るわれる。どれだけダメージを与えようと瞬時に回復し体力を気にせず常に全力で攻撃できる女王に輝力の供給量に劣るショウは徐々に押され、もはやその劣勢は目に見えるほどにまでになった。
「はぁ、はぁ。まだまだ……!」
震える膝でなんとか立ち上がるが、もはやそれが限界。槍を振るう力は残されてはいない。だが、それでもショウは立ち上がる。
「もはや勝ち目はない。にも拘わらず立ち上がるか。何の役にも立たん娘1人の為にそこまで意地を張るか」
「ヒトを見下す偉大な女王様には理解できないだろうさ」
「上に立つ者がいちいち下賤な者の下らぬ心情を慮ってやる必要はあるまい?」
「慮ってやらないのは女王だからじゃなくて単にアンタの精神や根性がひねくれ過ぎているからだよ。俺の知り合いの龍族でも高慢な奴はいてもお前ほど傲慢な奴はいないぞ」
「ふん、下等種族となれ合いをしている、あの七つ目の竜と我を同じにするな。我は高みへと行く者。それを阻むものはことごとく踏み潰してくれる!」
話は終わりだと女王が頭を下げ真っ向から突進してくる。性格はアレだがその戦いぶりは確かに王を自称するだけあって、どこまでも正攻法だった。
一方のショウは選択を迫られていた。
残るか戦いを続けるか。
既にイルマたちの気配が消えている事は察知していた。
イルマたちが成功したかどうかは分からないが2人が去った時点で、これ以上ショウに出来ることは何もない。で、あれば残る事に意味はない。
けれども――。
「自分の目で確認するまでは退けないよな!」
最後の力を集めた槍の先端が女王の頭に突き刺さる。だが、それも一瞬。女王の頭が槍を砕きショウの体を弾き飛ばす……はずだった。
「が、があああああああ!?なんだ?なぜこんな事がああああ!」
ショウの一刺しを受けて女王が今まで見せた事のない苦悶の表情を浮かべ仰け反り絶叫する。
そして声と共に力を失うかのように眩かった金色の鱗が次第にくすんでいく。それだけでなく体が一回り小さくなり体のあちこちに傷が生まれ、その度に女王が苦痛に呻く。
「なぜ、なぜだ!我は、我は……!」
苦痛にのたうち回る女王と呆然とするショウの中間の地面が下から凄まじい衝撃を受け盛り上がり、何かが飛び出してきた。
「それがあなたの本当の姿。自分の欲望のままに戦い続けた本当のあなたよ」
「貴様!?まさか貴様がこれを……!?」
いくつもの世界を戦火に巻き込んだ
しかし、今その虚飾は完全に剥がされた。
この精神世界の本来の主の手によって。
「ルカの言っていた私の知り合いって古間くんだったんだね」
「助けるつもりだったんだけど助けられちゃったね。はぁ、格好つかないなあ、これは」
半人半竜の姿から竜をモチーフにした翼と尻尾付きの白を基調に金で縁取りされた鎧をきた龍見にショウが力なく笑いかけた。
「そんなことないよ。古間くんやルカ、それにヴァイシュさんにイルマさん。みんなが頑張ってくれたから私は自分を取り戻せたんだから」
「ふざけるな!」
今までの余裕をすべて失い血走った目で傷だらけの女王が龍見の言葉を遮った。
「貴様如き虫けらが我に勝ったつもりか、図に乗るな!」
「嫌でも気づいているでしょ?あなたの『支配の力』は今は3つに分かれてしまっている。外にいるあなたを食べて大地と1つになった喰らうモノ。そしてあなたと私。力は三分割されて完全に力を発揮できなくなった」
「だからと言って女王である我が負けると思ってか!」
「もうあなたは女王じゃない。ラーという異世界で死んだ1匹の竜に過ぎない。そして私ももうただの小娘じゃない!」
始めから持っていたかのように龍見にはその力をどう扱えばいいのか分かっていた。だから彼女は自分の武器を出現させた。
柄の長さだけで3メートルを超え巨大な両刃を持つ大戦斧。自分よりも大きな存在を叩き潰すために生み出した龍見の力の象徴である。
「もうここは大丈夫だから古間くんはみんなの所に戻って。あとは私たちの問題だから」
「手助けしたいって言いたい所だけど足手まといになるだけだからね。それじゃ先に戻っているよ」
「ええ、また後でね」
まるで学校でする別れのあいさつの様な言葉に笑って頷いてショウの姿が消えた。
あとに残されたのは傷ついた竜と超常の力を手にした少女のみ。
「我と一対一で戦うだと?どこまで我を愚弄するか!」
龍見が見たようにラーもまた龍見の記憶を見ている。だからこそ彼女が何の力も持たない存在だと知っている。ラーの価値観では無価値とも言える者が自分に戦いを挑む。それを侮辱と取り激昂する。
「あまりのんびりしている時間はないの。こうしている間にも喰らうモノが『支配の力』を求めて集まってきちゃうから。つまり――」
一拍置いて。
「御託はいいからかかってきなさい、ラー・ル・リュシオーフュ!」
「貴様如きが我の名を呼ぶな、小娘!」
白と金。2色の光がぶつかり合う。
それは己の存在を懸けた最初で最後の戦いの始まりだった。
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