2 希望はここに集う

 「黒い竜たちが動くぞ!」

 「あの数はマズイですって!」

 

 イルマがいなくなり3人になった結界内。

 杖の老人は自分で宙に浮き、帝国兵の2人は呆然と動き出した黒い軍勢を見ていた。実際に『ドラゴン』と戦った帝国兵2人の言葉には抑えようのない恐怖が混じっていた。

 あらゆる攻撃を無効化するのはもちろんだが、その膂力も敏捷性も恐ろしく高く、元の覇龍を上回ってさえいた。

 そんな怪物が群れをなして襲ってくる。この状況に絶望感に捕らわれるなと言うのが無理だろう。

 だが――。


 『さぁ、始まるぞ。お主らもよく見ておくとよいぞ。そしてこの世界で起こっている事を余さず上に伝えよ』


 何を馬鹿な事を、という言葉は発せられることは無かった。

 なぜなら空に直径1㎞ほどの巨大な魔法陣が現れ言葉を飲み込まざるを得ない状況になったからだった。


 

 それは突然現れた。

 飛び立とうとした『ドラゴン』たちに向けて魔法陣から1本の巨大な柱を思わせるエネルギー波が放たれた。

 その一撃は直撃したモノはもちろん擦過したモノすら一瞬で蒸発させ地球に接舷しようとしていた大地を布陣していた『ドラゴン』諸共消し飛ばした。


 「あの竜どもを一撃で!?」

 『いいや、まだ終わってはおらんよ』

 

 先生の言葉通り、破壊された大地の一部に黒い粒子が集まり元の形へと再生させていく。そしてその再生された大地から生えるように黒い『ドラゴン』たちが現れ、次第に赤く染まっていく空に向けて羽ばたいていく。

 だが、そこを魔法陣からの2射目が発射されるが、その攻撃を大地の左右両端から現れた黒い塊が受け止め被害を防いだ。


 「こんどは何だ!あの島は一体何なのだ!?」

 『簡単な話じゃよ。あの大地そのものが喰らうモノなのじゃ。さしずめ攻撃を防いだのは腕といった所じゃろ』

 「あの巨大な島が……生き物だと?」


 帝国にも島と思われた物が巨大生物だったという話はある。だが、まさかそれが現実に見ることになるとは思わなかった2人が膝から崩れ落ちた。


 『さて、次はどう出るかの?』


 そんな2人を尻目に先生がのんびり呟く。

 その呟きに答えたという訳ではないだろうが空の巨大魔法陣が無数の小さな魔法陣に分裂し一斉に光の矢を連射し黒き竜を叩き落としていく。

 

 「大尉殿、一応報告しておきますが、さっきからパワーメーターが振り切ったまま戻らないんですけど故障でありましょうか?」


 腕時計にも見える機械を見てマルフォートも苦笑いを浮かべている。周囲のマナやそれに類する力を計測する機械は、すでにレッドゾーンを越えて動く素振りすらみせない。帝国が誇る最新鋭戦艦に搭載されていう主砲でもここまでの反応は見せないのだが……。


 「計測するだけ無駄だから切っておけ」


 空から降り注ぐ光の矢。その攻撃を物ともせず再生、増殖を繰り返し地球へ向かってくる喰らうモノ。

 まるで神代の戦いを思わせる光景を目にして、もはやゼスカルは口を開くのも億劫になっていた。

 もはや戦いは常人がどうにかできる域をはるかに超えていた。しかし、あんな大魔術がそう何度も使える訳がない。そう思うからこそゼスカルの言葉に力はない。いつかは均衡が崩れる、そうなれば全てが終わるのだから。

 

 「あんな無限に増え続ける相手にどう打ち勝てというのだ」

 『無論、相手を完全に叩き潰すだけじゃよ。先制攻撃は終わりじゃ。そろそろ本隊が来るぞい」

 『は?』


 「行くぜ、行くぜ、行くぜぇっ!一番槍はこの左文字耕作さもんじこうさくが頂いたぁ~!」

 ≪いえ、既にルカさんたちが交戦しているので一番槍では……≫

 「無駄無駄、どうせ聞いちゃいないよ」

 「聖剣よ、我らに勝利を!総員突撃!」

 「ゴー、ゴー、ゴー!」


 大地とそのものと化した喰らうモノ、『方舟』から翼を削除した『ドラゴン』たちが地球へと降りたち進軍を開始した。

 それを迎え撃つのは、三国志で有名な呂布の得物とされる方天画戟を持つ少年を先頭にした勇者たち。

 闇を思わせる黒と色とりどりの輝きが激突し大地を揺さぶる。

 その光景をゼスカルたちは呆然としたまま見守るしかなかった。

 

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