第六章 方舟迎撃戦

1 ショウ VS 女王

 「奴らが、奴らが我を……!許さんぞ、絶対にだ!我を出せ、下郎!」

 「あんたじゃただエサになるだけなんだ。いい加減学習してくれよ!」


 狭い空間の中で怒りに任せて暴れ回る女王を前にしてショウは接近出来ずにいた。

 振るわれた女王の腕を降下して避け接近しようとするがそこに上から炎のブレスが襲い掛かってくる。それを間一髪盾で防ぐが勢いに負け地面まで押し下げられてしまう。そこに今度は足が前から迫ってくる。


 「なんのっ!」

 「ええい、ちょこまかと鬱陶しい!」


 ジャンプで足の甲に飛び乗り、ショウは右手に持つ自分のではない『輝石』を女王の鱗に押し付けようとするが、その動きを察知した女王に振り落とされてしまう。


 「くそっ、もう少しなのに!」


 狭い空間なら小さいショウの方が有利に思えるが、こうも暴れられると接近するのもままならない。だからといって、オーブの位置をずらして空間を広げれば、その分だけ力場の耐久力が落ちてしまう。

 何よりショウ自身がまだ飛行能力を獲得して間もなく経験値不足な所がある。広々とした空間で純粋に空中戦となればショウの方が不利になる可能性すらある。

 一方の女王もまた意外なほどに手強い人間の存在に苛立ちながらも慎重に戦いを進めていた。


 (一切攻撃をせずに接触しようとする。恐らく何かの封印術を仕掛けるつもりか)


 人間程度が扱う術にやられるとは思ってはいない。いないのだが、女王の勘が激しく危険を告げているのもまた事実であった。

 

 「戦うつもりもない臆病者が我の行動を阻むな!」

 「戦いたいなら1人で戦え。関係ない人を巻き込むな!」

 「この体は既に我の物だ!」

 「それはどうかな!」


 女王の背後に回ろうとするショウを追うように背後から女王の爆発の魔術が次々と炸裂する。

 もう少しという所でショウの視界に一瞬影が差し、その体が大きく跳ね飛ばされた。死角から振るわれた尻尾がショウの体を捉えたのだ。


 「ふん、愚かな」


 必殺を確信する女王。だが――。


 「なんのこれしき!」


 元気に飛び起きたショウだが右手にあったはずの輝石が無くなっている事に気づいて慌てて周囲を探す。だが探し物は見つからず、そうしている間に苛立ちがマックスになった女王は最終手段を取ろうとしていた。


 「おのれ、おのれ、おのれ!貴様ごとき塵芥が我を阻むなど許されるものか!」


 女王の苛立ちに呼応するように金色の鱗の内側から巨大な力の波動が発せられ周囲を震わせる。

 それは力場の外にいても感じられるほどのものであった。



 「ちっ!ショウは何してんだよ!」

 「どうやら輝石を落としたようですね。手伝いに行きたい所ですが女王の力に感化されて喰らうモノが力を増しています。これは、マズイですね」

 

 さらに少し離れた所では。


 

 『いかんな。無理やり支配の力を使おうとしておる。あんな体も精神も不安定な状態で連続で使えば何が起こるか分からんぞ』

 「あの、支配の力って何なんですか?」

 『その名の通り周囲の存在を支配下に置くことが出来る魔法の一種じゃ。悪用されぬ様に厳重に封印されておったのじゃが、その封印の番をしておった者の末裔が悪用するとは皮肉な話じゃな』

 「覇龍戦争で沢山の兵士が戦闘中におかしな行動をとったのも支配の力のせいってことですか?」

 『多分そうじゃろう。じゃが何より厄介なのは支配するという対象が何も他者だけではないという点じゃな。自身に使う事も出来るのじゃ』

 「自分を支配する?何か意味があるんですか、それ?」

 『大ありじゃ。自身を支配し望む姿、能力を得る事で出来るのじゃからな。だから喰らうモノもユグドラシルも狙っておるのじゃろう。帝国に関しては、どこまで掴んでおるかはしらんがの』


 周囲を気にしつつ聞き耳を立てていたゼスカルはポーカーフェイスを崩さない。


 「あのそれを喰らうモノが手に入れたら大変なんじゃ?」

 『大変どころではないのう。誇張なしに全ての世界が滅ぼされるかもしれんぞ』

 「そんな、どうしたら……って、あれ、そこで何か光ってませんか?」


 イルマが指さした方向に微かに何かが光っているように見える。

 

 『あれはショウが持っておった予備の輝石じゃ!なぜあのような所に?……すまんがイルマ。お主に折り入って頼みがある』

 「えっと、すごく嫌な予感がするんですけど……」


 嫌な予感ほどよく当たるという事をこの後イルマは嫌というほど思い知る事になるのであった。



 「くっ!?」


 今まさに力を開放しようとする女王を前にしてショウは右手に槍を構え、そこから行動を起こすことが出来ずにいた。

 例え見た目は違っても体は龍見の物なのだ。それを傷つける事を躊躇っているうちに女王の力が充足し、そして周囲に放たれたようとしていた。


 「さぁ、これで……!?」

 (やめて!)


 何が起こるか分からず身構えるショウだったが、勝ち誇った女王の体が突然硬直し体を覆っていた光が突然消えてしまった。


 「こ、小娘が……!」

 「まさか幸原さんか?くそっ、今がチャンスなのに!」

 「おのれ、矮小な存在のくせに我に抵抗するか!なぜ、我が、世界に認められし覇者たる我がこのような有象無象に手こずらねばならん!」


 唯一動く頭を振って怒りを現わす女王だが、しかし龍見の抵抗も徐々に薄れてきている。少しずつではあるが手足が震えながらも動き出し始めていた。

 

 「くそ、どこに落ちた!」

 「ここにあるよ!」

 「え?」


 命がけで落とした輝石まで辿り着いたイルマを先生がテレポートでオーブの力場内に放り込んだのであるが、そんな事をショウが想像できるはずもなく居るはずのない人の存在に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして固まってしまった。


 「面白い顔している場合じゃないでしょ。ほら、パス!」

 「あ、ああ。ありがとう、感謝するよ!」


 輝石を受け取ったショウが飛び上がり女王の胸に受け取った無色の輝石を押し付けた。


 「貴様、何を……!?」

 「決まっているだろ。悪霊退治だ!」


 ショウのペンダントと女王に押し付けれらた輝石、そして――。


 「ペンダントが光っている?」


 近くにいたイルマのペンダントもなぜか共鳴するように光を発っしたのであった。

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