2 追跡者
(……これは幸運というべきなのか?)
前方を歩く2人の少女を尾行しているのは魔導帝国の兵士ゼスカルだった。
隠れ家にしている公園から出たゼスカルは、昨日発生した謎の力場の正体を探る為に東京の街を散策していたゼスカルだったが、地球の文化と技術にカルチャーショックを受けた以外は特に収穫がなく夕方を迎えてしまった。
マルフォートに指示した待ち合わせの時刻が迫っていたため隠れ家へ帰る途中で、ゼスカルが持つ特殊な魔力探知機が反応を示した。
(馬鹿な。なぜこんな場所に女王の反応がある!?)
黒鳥隊に与えられた最優先任務。『女王捕獲作戦』の為に与えられた女王ラーの魔力パターンを登録してある特別製の代物である。
最初は故障を疑ったものの、万が一を考えゼスカルは周囲を調べあげた。その結果、多くの若者が出てくる建物から反応がある事を確認し、貴重な魔力を消費しマルフォートへ連絡を入れた。
そして、ゼスカルは正門、マルフォートは裏門を魔術で姿を消し見張っていると1人の女生徒に魔力探知機は強い反応を示した。
「ターゲットを発見した」
『取り押さえるでありますか?』
「まずは人気のない所へ……いや、待て。なんだ、アイツは?」
女生徒が校門を出ると、小柄な人影がひっそりと後をつけているのを見てゼスカルの直感が激しく警告を発する。人影と称したのは姿がはっきりしない、恐らくなんらかの認識阻害が発生しているせいであろう。
『どうしたでありますか?』
「俺たち以外にターゲットを尾行している奴がいる」
「何者でありますか?」
「知らん。だが相手は何かの魔術を使っている。恐らく俺たちの同類だろう」
『どうするでありますか?』
問われたゼスカルは己の迂闊さに舌打ちした。
(この世界にも魔術師がいたとはな。姿は消していたが魔力は消してはいなかったのは失敗だった。恐らく向こうはこちらの存在に気づいているだろうな。ターゲットの方は戦闘能力はなさそうだが、しかしなぜ女王の反応があの娘に?)
『大尉殿?』
分からない事はひとまず横に置きゼスカルは思考を切り替える。
「相手が何者かは知らんが増援が来る前にターゲットを確保する」
『それはいいでありますが、その後は?』
いくらターゲットを捕らえようと帰る手段がなければ意味がないとマルフォートは言う。無論、それはゼスカルにも分かっていた。
「ターゲットから情報と目的の物を奪う。その後は交渉のカードとしても使えるかもしれん」
『人質でありますか』
「不満か?」
『正直思う所はあります。ですが生還するためには手段を選んでいられないというのは理解しているであります』
「それでいい。お前は魔力隠蔽しつつ距離を置いてついてこい。仕掛けるタイミングはこちらで指示する」
『了解であります』
(帰る方法より先にターゲットを見つけてしまうとはな、まったく……)
幸運と呼ぶか不運を呼ぶかは悩む所だがターゲットを見つけてしまった以上は任務を遂行するのみ。
(問題は相手の能力が全く見当もつかない点だが)
非常に強い魔力を発している小柄の方は明らかに現地人とは違う。で、あれば世界間を移動する方法を知っている可能性がある。
出来れば穏便に済ませたいとゼスカルは思う。
任務のためにあの位の年の少年兵を殺したことは何度もある。他の黒鳥隊のメンバーなら躊躇いもなく邪魔する者は殺すのだろうがゼスカルはそんな兵器になるつもりはなかった。
(どうせここじゃ誰も見ていない。俺は俺の流儀でやらせてもらうさ)
店の前で接触した2人が歩き出したのを見てゼスカルも動き出す。
背中にじんわりと嫌な汗をかいているのを感じる。大体こういう感覚があるときはろくでもないことが起きる物だ。
けれども、今のゼスカルに行動を思いとどまるという道は残ってはいなかった。
任務もあるが、それ以上に自分の世界に帰るためにゼスカルはチャンスを待つのであった。
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