7 いざ外へ!
「ということがありまして」
『ほう、それはまた難儀な経験をしたものじゃな。奴の仕込みがなければアレに喰われておったじゃろうな』
「仕込み?」
『いや、なんでもない。ふ~む、のうイブさんや』
「ドウシマシタ センセイ?」
当たり前のように老人が呼びかけるとすぐにイブから返事が来た。
『この子に説明するする役目をワシに任せてもらえんかのう?』
「チーフカラ キョカガ オリマシタ。オマカセスル トノコトデス」
『すまんの。チーフ殿には後でキチンと詫びに行くと伝えておくれ』
(詫びに行くって、この姿でどうやって行くんだろう?)
『こりゃ、なにをボーッとしておる。早くワシを持つのじゃ』
宙に浮いて勝手に動き回る杖の姿を想像し中々にホラーな図だなと思っているイルマを老人が叱責した。
「ああ、私が持っていくんだ」
そりゃそうだよなぁと思いながら杖を手に取る。手に持った感触は意外に硬く鈍器としても使えそうだ。にも拘わらず重さはさほどでもなく取り回しは簡単そうだ。
『一応言っておくがワシを鈍器として扱うでないぞ?』
「アハハ、モチロンデスヨ~」
『とりあえず物騒な発想から入るというのは母親譲りじゃな』
「あ、そうですよ。えっとセンセーは、どこでお母さんと知り合ったんですか?」
『露骨に話を変えおったな。まぁ良い。あれは確かどこぞの遺跡じゃったかな。ワシは
「えっ、センセーって盗掘者だったんですか!?」
『盗掘とは人聞きが悪いの。放置されていた物を回収し保存しておるだけじゃぞ。そんな崇高な目的の為に活動しておるときにちょくちょく遺跡で顔を合わせては戦ったり協力したり色々あったのじゃよ。その話はまた今度にして、まずはお主が特に知りたいであろう、あの黒い竜の事を話そう。じゃが、こんな狭い場所に閉じこもっておるのも気が滅入るじゃろう。どうじゃ、せっかくじゃから外に出てみんか?』
「えっ、外に出ていいんですか!?」
『最初に説明されんかったか?お前さんは別に捕虜でもなんでもない。それこそ帰る方法があるのなら今すぐ帰っても誰も文句は言わんぞ?』
「私が言うのもアレですけど組織としてどうなんですか、それは?」
『むろん敵対する意志があれば相応の対応はとるし、騙して利益を得ようする輩にはきちんとツケを払わせる。じゃが、ただ迷い込んできた者をどうこうするつもりはない。むしろここで得た情報を速やかにそれぞれの世界の偉いさんに持って帰ってほしいんじゃよ』
「そんな情報を安売りしていいんですか?」
『ここの者たちは構わんと思っておる。世界存亡に関わる話じゃから当然の判断だとワシも思うがの』
「世界が滅ぶって冗談……ですよね?」
『お主も見たじゃろう。滅んだ世界に溢れかえる異質な怪物の姿を?」
「あっ……」
あの竜たちはそこまで危険な存在なのか?これから自分は一体何を聞かされるのか、不安で眩暈を起こしそうだ。
『安心せい。『魔法使いの世界』には強力な結界が張ってある。奴らもそう簡単には侵入できん』
魔法使いの世界とは、かつて魔法使いが治めていた世界の事を指す。そしてそれは今ユグドラシルの影響下にある世界と同義と言ってもいい。
だが、それらの世界全体に結界が張られているなんて話は初耳だった。
『私たちの世界が結界で守られている?なんでセンセーはそんな事を知って……」
『ほっほっほ、続きは外でやるかの。昨夜は碌にあの歪な世界をみておらんじゃろう。しっかりと見て、経験しておくといい。魔法魔術に類する力が全くない世界などそうはないからのう』
「じゃあ、ここは魔法使いの世界とは全く違う世界なんですか?」
『実際に行ってみればよく分かるぞい。道案内は任せよ。ワシも久しぶりにデートを楽しみたいしのぅ』
「デートって……」
質問に答えてくれないのは実際に見てのお楽しみという事らしい。無駄に茶目っ気がある老人の言葉に苦笑しながらイルマは杖を持って倉庫を後にする。だが楽しそうな老人と違いイルマの気は晴れない。
(世界を滅ぼす存在……)
無意識に開いている手で胸のペンダントに触れる。
果たして今の状況はあの指令の想定範囲内なのか、それとも――。
(とにかく私は私の出来る事をしないと……!)
持ち前の前向きさを発揮してモヤモヤした気分を胸の底に押し込めてイルマはこれから赴く世界に思いを馳せる。
そこでまたトラブルに巻き込まれる事になるとも知らずに。
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