3 奇妙なゴーレム
孤立してしまった恐怖を押し殺して遺跡の中を進むイルマの前にそれは現れた。
全長3メートル、フルプレートメイルを模した装甲をもつ『騎士』と称されるゴーレムに行く手を阻まれたのだ。
(あっ、私死んだな)
鈍重そうに見えるが相手は魔法(あるいは高度な魔術)で動く兵器である。
逃げようとする背に巨大な剣が振り下ろされるか、それともよく分からない魔術兵器で塵も残さず消滅させられるか。
(できれば痛くないほうがいいなぁ)
もはや諦観の念で、その時を待つイルマだったがなぜかそのゴーレムは動こうとしない。砲身そのものになっている左腕をイルマに向けた格好のままで固まってしまった。
(壊れたって訳じゃないよね?)
ちょっと分かりにくいが、兜の奥の目に当たる部分から出た赤い光がポインターのようにイルマの体を照らしている。そして光がイルマの胸元、服の内側に隠されたあのペンダントの上で止まった。
「~~~」
ゴーレムが何か話そうとしたようだが、言語機能が壊れているのかイルマの耳には雑音にしか聞こえなかった。
『何か、言う、私に?』
ダメ元で覚えたての古代語で話しかけてみると『騎士』の目が緑色に変わり、まるでイルマに忠誠を誓うかのように片膝をついて頭を垂れた。
「え、え?どう言う事?」
「~~~」
とりあえず危機的状況は脱したようだが、その原因が分からず困惑するイルマに再び『騎士』が何かを言っているのだが聞き取れない。
(どうしよう?何か言わないと気が変わって襲い掛かってくるかも……)
人間の様に表情を読む事も出来ないし、下手にジェスチャーをすれば敵対行為とみなされるかもしれない。
色々考えた結果、イルマはこの窮地を脱する方法を古代語で尋ねてみることにした。
『出口、分からない、私、教えて』
こんなたどたどしい古代語が通じるのか、いや、そもそもコミュニケーションをとるのに古代語が正解なのかも分からないが、とりあえず試してみると。
「…………」
その問いに対して『騎士』は行動で返答した。
ギシギシと音を立てて立ち上がるとイルマに背を向けてゆっくりとした歩みで暗い道を進んでいく。
それを「ついてこい」ということだろうと判断したイルマは置いて行かれないように駆け足で後を追っていった。
その時の冒険はイルマは生涯忘れる事はないだろう。
道中で遺跡に住み着いた野生動物や巨大な虫に遭遇したが、それらは全て『騎士』によって撃退された。
意外だったのは決して殺そうとはせず、肩から発射される熱線で威嚇するに留めていたことだ。それが遺跡保全の観点からか、それとも殺生を嫌っての事だったのかはイルマには判断がつかなかった。
途中から巡回していた小型の車両型ゴーレムが2台加わり、イルマは特に何もすることなく彼らに囲まれ30分ほど歩き続けた。
地上の樹木が根を張っている通路を進んでいくと『騎士』が動きを止めた。どうしたのかとイルマが思っていると壁の一部が開き階段が現れた。どうやらこの奇妙な一行との短い旅はここで終わりらしい。
『ありがとう』
通じるかはわからなかったが、それでも心からのお礼を3体のゴーレムに言い、イルマは階段を上がっていく。階段は遺跡の入り口とは離れた場所に繋がっており地上は既に夜になっていた。イルマが外に出ると同時に階段への入り口は閉じられてしまい行き来は不可能となった。
その後、近くにあった調査隊のキャンプに戻ると教授を始め他のメンバーが全員幽霊を見たかのように驚き、本当に生きていると分かった後はもみくちゃにされ説教を受ける事になった。
その後、イルマの経験は教授によって学会に発表されるが、「駆け出しの作り話」として一蹴されてしまう。
だが、イルマは気にしなかった。
いつかあの『騎士』と会い、話をする。
新たな目標を得たイルマは苦手だった座学にも熱心に取り組むようになる。そして知識と経験を積んだイルマはユグドラシル本部へと招かれることになったのだ。
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