2 ロボット=ゴーレム?

 (う~ん、どこでも好きな所を見ていいってことかな)


 随分とオーブンな組織なのか、それともここには大した物はないのか。

 そんなことを考えながら歩いていると、先ほどとは違う掃除ロボが自分の仕事をしているのを発見した。なんとはなしに観察していると床から壁、そして天井にまで張り付いて掃除をしているようだ。


 (……いやいやいや、なんでアレ普通に天井に張り付いて落ちないの!?)


 イルマの世界でも魔術を駆使すればあれくらいの動きをするゴーレムは作れるかもしれない。ただ費用はとんでもないことになりそうだし、それなら安価なマジックアイテムの方がいいだろう。


 (どういう仕組みなんだろう。持って帰ったら先生喜びそうだな~)


 先生とは故郷でイルマを雇ってくれていた学者であり古代遺物、特にゴーレムを偏愛している謎多き女性である。

 「ゴーレム、それは古代のロマンよ!」と意味不明の言葉を陶酔の眼差しで口走る人物で故郷でも良くも悪くも有名な人だ。

 だが、彼女の言葉に賛意を示す同業者はそれほど多くはない。

 ゴーレム。それはかつて魔法使マギウスいが作った番人であり、今なおその使命を果たすために遺跡を徘徊している。強固な装甲と尽きることないエネルギー、そして決して朽ちる事のないその体は確かにロマンと言えるほどの秘密を抱えている。だが、未だにその秘密を解明できた者はいない。

 

 (先生はまだゴーレムの研究をしているのかな?いや、してるんだろうなぁ。魔法使いの忠実なるしもべか)


 かつて高度な文明を築いた魔法使マギウスいたちは非常に長命だったと考えられている。その理由は古文書や遺跡の壁画に同じ人物を指す言葉が何度も現れるからだ。

 無論、名前は世襲であることも考えられるが姿、性格、活躍に応じて与えられた二つ名が一致することから同じ人物が長い間活躍していたと考えられている。

 魔法使いの遺跡からだけでなく当時彼らに統治されていた様々な種族が残した碑文にも『不死』を表す言葉や『神』といった文字がよく見られた。


 だが、魔法使いたちは決して神でも不死でもなかった。


 個として完成された生物の宿命か、子どもを作る能力は極めて低かった彼らの歴史を辿っていくと、時代が下るにつれて多くの世界で同じ名前が見られるようになってくる。

 しかし限られた人数で多くの世界を統治するのは限界に近付きつつあった。

 魔法使いたちの数が減るにつれ少しずつ世界は乱れ始め中には『魔法』を奪おうとする者たちまで現れるようになった。

 そこで魔法使いたちは自分たちの手助けをしてくれる忠実な友にして番人を作り出し各世界にある重要施設の管理を任せた。

 そしてある時を境に魔法使いたちはその姿を忽然と消してしまった。

 その際に魔法使いたちは自らが作った施設を封印したが、ゴーレムたちは施設、今では遺跡となった場所を守り続け侵入者には容赦なく襲い掛かってくる。

 

 『小型ならやり過ごせ、大型ならとにかく逃げろ。人型だったら諦めろ』


 先達たちが代々伝えてきた言葉がその恐ろしさを端的に語っている。

 小型の遺跡管理用の非人型ゴーレムならば、まだ人数がいればどうにかなる。装甲は固いが大した武装はされていないからだ。

 大型は大体特定のエリアを守るように設定されており、そのエリアから離れればそれ以上はなにもしてこない。

 だが、戦闘を想定された人型ゴーレムは危険度が桁違いだ。どこまでも追ってきて、圧倒的な火力で侵入者を消滅させる恐るべき存在であり、出会う事は死を意味すると言っても過言ではない。


 だがイルマはまだ駆け出しの頃に、その人型に遭遇したことがある。

 誰しもが経験するであろう『慣れ始めてきた頃が一番危ない』。何度かの調査に同行して一端の調査員になった気でいたイルマはこの言葉通りに些細なミスで調査隊から一人はぐれてしまったのだ。

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