第三章 少女が見た夢

1 夢の中 (空)

 今日もまた夢を見ている。

 時々、妙にリアルな夢を見る事があるけど、これは今まで見てきた中でもかなりリアルな夢だと思う。いや、そんな夢の内容をはっきり記憶するタイプじゃないので断言はできないけれども。

 だけど、視界に広がる雲、その先に見える山々、下に見える草原や湖、まるで写真を撮ったかのように鮮明で匂いすら感じられそうだ。


 そう、夢の中の私は空を飛んでいた。

 

 けれど悲しいかな。夢であるために匂いも音も感じられず、体も自由に動かすことは出来ない。

 何より、この夢はそんな景色をゆっくり楽しむような平和な物じゃない。


 いつも通りにが下に向くと、そこには様々な形をした船が浮いていた。帆船風なのやビート版を大きくしたような平たい船。そんなのが水にではなく空を飛んでいる。SFやファンタジーでおなじみの空飛ぶ船、いや武装されているから軍艦かな?

 その船たちに取りつけられた大砲の周りに魔法陣みたいなものが展開され一斉に私とその後ろにいる仲間目がけて火を噴いた。

 だけど夢の中の私は遊び感覚でその攻撃を最小限の動きで躱していく。けれど後ろの仲間たちは何発かよけきれず爆発し跡形もなく粉々になった。


 『ほう、中々の威力だ。どれ、褒美をくれてやろう』


 私はそう呟き大きく息を吸い力を溜めこみ、口から強烈な光線を吐き出し数隻の船を薙ぎ払い、眼下の地上で爆発を起こした。

 だけど敵もさるもの。小さな船は爆散したけど大きな船は光線に耐えきり、バランスを崩しながらも撃ち返してくる。


 『ふふふ、あれくらいは耐えてもらわなければな。ならば、これはどうだ?』

 

 避ける事を止めて、小さく何かを呟く。呟いた言葉は上手く聞き取れないけど意味はなんとなく分かる。


「炎、風、渦」


 多分、こんな意味だと思う。


 そしてその言葉は現実になる。


 黒煙をあげつつも砲撃していた大きな船の中心に起こった炎の竜巻は周囲の船を巻き込み破壊していった。

 そして残った船に対して、後ろに控えていた仲間、ドラゴンたちが一斉に向かっていきトドメをさしていく。

 ドラゴンと船、性格には船に乗っている人たちの死闘を黄金の鱗を持つドラゴンになった私は笑いながら見ていた。




 (疲れているのかな、私は)


 さすがに何日も続けて同じ夢を見ているとショッキングなシーンにもなれてしまうし、夢の中でもツッコミを入れられるくらいには余裕が出来る。

 その後も夢の中で私は、人間相手を相手に圧倒的な力を振るい続けている。

 さっきは魔法みたいなものを使ったけど、そんなものを使わなくても夢の中の私は強い。

 体当たりで船の機関部を突き破り、爪で近寄ってきた兵士を切り裂き、尻尾の一撃で傾いた船からはボロボロと人が落ちていく。

 ディテールの荒い夢ならストレス発散!となりそうだけど、必死に向かってくる人、泣き叫びながら地面に落ちていく人、目を瞑り最期を待つ人、そのどれもが恐ろしくリアルで心を鷲掴みにされ何度見ても気持ちのいいものじゃない。

 だけど、夢の中の私は、そんな戦いの犠牲など気にも留めず戦場を蹂躙していく。

 

 (最近、こんな場面がある映画とか小説読んだかな?)


 最初は衝撃を受けた光景も、続けて何度も見れば慣れてしまう。

 人間の持つ順応性、あるいは親がくれた図太さに感謝しながらこの凄惨な夢を生み出した自分の記憶を辿るけど思い当たる物は特になかった。


 (ドラゴンになっているのは名前に対するコンプレックス? 戦争は競争社会の現れ? 人と戦っているのはなんだろう?あっ、そろそろかな)


 考えている間に場面はいつも通り唐突に変わっていく。

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