3 トラブルは空から落ちてくる
「あ~あ、腹減ったな。戻ったら何食うかな~」
「お前、出撃前にもラーメン食ってただろ。ってなんだ、あれ?」
移動開始から三分後、そろそろ高度を落とそうとしたショウの目が進行方向上方に奇妙な空間の揺らぎを捉えた。
「警告! 転移反応が急速に増大中。空間侵食開始。上空結界作動……結界の展開を確認。……空間侵食収まりません。敵の出現を確認。ドラゴンタイプです!」
東京上空を覆う結界が発動し侵入者を阻む壁を形成するが、広く浅く張られた結界は効力が弱く、敵を防ぐ壁としては頼りない。
特に今回のように初めから強い状態で現れる個体にはほとんど防壁としては役に立たず、破られた場所を感知して地上部隊を急行させるという使い方しかできない。だからこそどれだけ上空で撃破できるかが勝負なのだが、その点では今回は運が良いと言えた。
「へへへ、上等だ。来やがれ!」
いつの間にか取り出した雷の力を内包した宝玉を右手に握りしめてルカが吼える。
体の周囲からバチバチと電気が走り可愛らしい顔に似合わない獰猛な笑みを浮かべ水面の様に波紋を広げる空間へ向けて疾駆する。
「1人で突っ込むなって!ヴァイシュ、本部へは?」
「既に報告済みです。対処はこちらに一任するとのことでした」
「了解だ。俺たちも行くぞ!」
ショウも槍と盾を出現させてルカを追いかけ、その後にヴァイシュが続く。勝負は一瞬。敵が散開するまえにどれだけ仕留める事ができるかだ。
「空間侵食なおも増大。……ん?」
「どうした、何かトラブルか?」
「いえ、近い位置に別の小さな転移反応を確認。あの地点から何かが転移してきます」
「喰らうモノの別動隊か?」
だがショウの質問にヴァイシュが答える前にソレは現れた。
「うひゃああああああ!?」
空間に波紋が広がっていき直径3メートルほどの黄金に輝く円形の穴が開き、そこから帽子をかぶった女性が素っ頓狂な悲鳴を上げながら飛び出してきて、そのまま重力に引かれて落ちていく。
「なんだぁ?」
「くそっ、間に合え!」
妙な闖入者に驚くルカよりも早く状況を認識したショウが急降下し手足をばたつかせて重力に反抗しようとしている女性を拾いにいく。
「喰らうモノの出現を確認。迎撃開始します。シャインブラスター発射!」
謎の女性の登場から間を置かず、最初に現れた揺らぎから黒い鱗に爛々と赤い瞳を輝かせた竜の姿をした喰らうモノに向けてヴァイシュが腹部に内蔵されたエネルギー砲を発射した。
「あっ!てめぇ、抜け駆けすんじゃねえよ!」
ヴァイシュの攻撃で起こった爆発が収まるのも待たずルカの右手から放たれた雷撃を放ち攻撃する。
だがその攻撃を受けても喰らうモノは怯まない。
死にかけた個体を即座に喰らい吸収し、地球へ続く穴が狭いと判断した何体かは異空間内部から爪を立てて力づくで拡張していく。
夜空がヒビ割れ、まるで地球という世界が悲鳴を上げているかのような甲高い不快な音が周囲に響く。
そして拡張した部分から我先にと、もがき出てこようとする侵略者にヴァルシュの両手の指から発せられた10本のホーミングビームが襲い掛かる。
「くそっ、いつもよりやけに強引じゃねぇか!?」
「推測ですが、さきほど落ちていった女性を追っているのではないでしょうか?」
「あの女が連れてきたってのか?なら、感謝しないとなぁ!」
ルカの左手に雷の力が集い槍の形をとる。それを押し合いへし合いから抜け出た1匹に向けて投げつける。翼を広げて滑空の態勢をとろうとした『ドラゴン』の背中に突き刺さった槍はそのまま爆発し周囲に雷撃を撒き散らし後に続こうとした個体も焼き落としていく。
「こっちを無視すんじゃねぇよ!」
「警告、リクエスト通り攻撃が来ます!」
エネルギーチャージのためヴァイシュの攻撃が止まった瞬間、同士討ちになるのも気にせず複数の『ドラゴン』の口から黒色のブレスが2人に放たれた。
「バリア最大出力!」
攻撃に集中しすぎて反応が遅れたルカを庇うようにヴァイシュがバリアを展開して前に出る。
複数のブレスが射線上で融合し1つの強力なエネルギー波となりヴァイシュが張ったバリアに当たり大爆発を起こした。
「……くっ。おいポンコツ、生きているか!?」
予想以上の攻撃に流石のルカもヴァイシュを心配するが。
「ええ、幸いダメージは負っていません」
「さすが、頑丈なだけが取り柄だな!」
「いえ、私の力ではなく……」
ヴァイシュの太い指がさした先に浮かぶ2人を守るように力場を発生させているショウの盾に嵌められていたオーブの内の3つがあった。
「便利な盾だな。って、そんなことよりオレの獲物をどうなった?」
「大半はあの爆発で消滅。地球に侵入しようとした数体も自壊しました」
「勝手に死んだのかよ?……ん、今までは普通にこっちに来れてたじゃねぇか?」
「ええ、先ほどの話にもありましたが、向こうに何かあったのかもしれませんね。開いていた穴もすでに閉じています。とりあえず襲撃は収まったと判断してよさそうですね」
「ったく消化不良だっての!んでショウはどうなった?」
「なにやら、揉めているようです」
「はぁ?」
首を傾げるルカの下。とあるビルの屋上近くにて。
「落ちるぅぅ!」
「だから、もう落ちていないって! こら、暴れるな!」
「ぎにゃあああ! 胸が潰れる~!いや~、空飛ぶ痴漢がいるぅぅぅ!」
「わざとじゃないって!とにかく一旦下ろすから落ち着いてくれよ~。人にバレたら色々マズいんだからさ~」
「見られたらマズい事をするつもり!?」
「だから違うって!……なんで人助けしてるのにこんな事言われなきゃならないんだ……」
「人の胸を鷲掴みしてるからでしょ!」
「そっちが暴れるからだ!おい、ヴァイシュ、ルカ、聞いているんだろ?なんとかしてくれー!」
この日を境に勇者ギルドを悩ませてきた喰らうモノの大発生はひとまず収まった。
だが、彼らは知らない。
問題の種は既にこの世界に紛れ込み根を下ろしていたことを。やがてソレが複数の世界を巻き込む大きな騒動に発展していくことになりショウたちも否応なく巻き込まれていくことになる……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます