4 カード

 「そりゃ、局長だよ。遺産管理局局長ケディン・アトラクカ。曲者ぞろいで有名なお偉いさんの中でも特に掴みどころのないおっさんだ」

 「えっ、そんな偉い人だったんですか!?」

 「まぁな。どうした、そんな青い顔をして?」

 「あ、いえ、なんでもありません! それで、このカードなんですが……」


 膝蹴りの事は心の中に深く鍵をかけて閉じ込めておくことにして、謎の男ことケディンがくれたカードを見せると眉間にしわを寄せてカードを受け取る。


 「そのカードは一体何なんですか?」

 「その前に聞きたい。これは俺宛てにじゃなくて、お前に渡されたんだな」


 イルマから踊り場でのやりとりを聞きながらログの寝不足の頭を無理やり覚醒させて局長の意図を掴もうと考えを巡らしていく。


 (そもそも、なんでこんな新人、いやド素人にやらせる?人がいない?うちの連中なら監視の目を盗むことぐらい簡単だろうに)

 (もちろんバレたら二度と復帰できなくなるが、どこかの地方支部に偽名で潜伏、ほとぼりが冷めたら本部に復帰なんて朝飯前に出来るだろ)

 (一応コイツの経歴は目を通したが、中級レベルの遺跡をいくつか踏破したくらいで特別ずば抜けた何かがあった訳じゃない。もしかしたら実は天才という可能性も……、やっぱり、ねぇな)


 (と、なるとやっぱり『血縁ブラッド』か)


 世の中には奇妙に古代遺産と縁のある人生を送る者がいる。そういった人たちのルーツを辿るとだいたい先祖に魔法使マギウスいがいるという。

 遺跡で開かなかった扉が開いた、止まっていた装置が動き出したなど魔法使いの血を濃く受けついだ者には遺跡の機能を目覚めさせる力がある。

 この遺産管理局にもそういった者は何人か在籍しているしログもそういった素養をもつ一人である。

 だが、だとしてもやはりこの新人に任せる理由はなさそうに思えるのだが……。

 

 「あの~、班長?」

 「あ、ああ、悪いな。ちょっとついて来い」


 ログはデスクワークで鈍った体を解すように伸びをしながら大部屋を歩いていき「局長室」とプレートがある扉を開けて中に入っていく。


 「いいんですか、勝手に入って?」

 「いいんだよ、どうせここには大した物は置いてないんだしな。だが、一応局長室だからな。セキュリティは万全だ。さてと……」


 当然誰も居ない受付部屋を通り過ぎ両開きの扉を開けると自動で明かりがつき高価な調度品に彩られた部屋にイルマは初めて足を踏み入れた。


 「大した物ないって言ってましたけど、どう見ても高そうな物が沢山ですよ!?」

 「あほう。俺らにとって価値があるのは魔法使い関係の遺産だけだ。それに比べりゃ、ここにあるのはちょっとお高いだけのつまらん物だ」

 「そ、そうなんですか?」

 「ま、俺らの薄給で買える物でもないけどな」

 「やっぱり高いんじゃないですかぁ!」

 「んなこたぁどうでもいい。さてと、これからちょっとマジな話をするからお前も真面目に聞け」


 木製の豪勢な机に腰掛けるログの顔には今までの自堕落な雰囲気は消え失せ、幾たびの死線を潜り抜けてきた戦士の顔になっていた。

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