第11話 [食事]
パッと目を覚まし、羊の番を寝過ごした!と焦った僕は周りを確認してふうっと息を吐いた。
えっと、ここは、僕の家じゃなくて……。いや、家はなくなってて、美少女と話したような……。
「起きたですか?」
「うわっ!」
今までに起きたことを思い返そうとしていると、僕が寝ていたベッドの近くから声がした。
びっくりして声がした方を見ると、トレーを持った幼い女の子が立っていた。ベッドの高さを考えても座っている僕より背が小さい。
しかもその女の子のオレンジ色の髪の毛からは三角の柔らかそうなふさふさの耳が生えていて、同じようなふさふさの尻尾がメイド服のスカートからちらっと見えている。
茶色の瞳はぱっちりしていて、それが可愛さに拍車をかけていた。
「初めましてだよね?」
「名前、トゥイーニー。ご主人様から、話す前のご飯です」
ベッドに置かれたトレーにはいくつもある陶器のお皿に、わからないものが綺麗に盛りつけられていた。
青紫色と黄色の断面をしたなにかの輪切り、白くつるんとした豆のようなものがたくさん入った器、一口サイズに切られた肉のようなもの。
これ、あの飲み物と同じく口に入れて大丈夫なのかな……。
「ご主人様もトゥイーニー達も人間がなに食べるのかわからない。だからトゥイーニーが見てます」
見られててもなぁ。合わない食べ物を食べて苦しむのは僕なんだけど。
「い、いただきます」
木製のフォークで輪切りを突き刺して持ち上げると、黄色の汁がネトーッと皿に落ちた。精神的にダメージを負ったので一度上を見て深呼吸し、考える暇を与えず息を止めたまま一気に口に放り込んだ。
「それは魔力が豊富な果実。デザートにご主人様も召し上がる」
植物特有の青臭い匂いは羊の飼い葉よりマシだし、微かにわかる甘さも味として問題ない。でも果実の粘液が口の中いっぱいにぬるぬるネトネトしていて気持ち悪い。
果実を噛もうにもぬるぬるで果実が歯から逃げていく。
窒息しないように時間をかけて少しずつ粘液を飲み込み、力の入れ具合を調節して果実を噛み砕いた。輪切り一枚食べるのにこんなんじゃ食事だけで疲れきってしまいそうだ。
「食べれなくはないけど……ご飯には向いてないかな」
「それはトゥイーニーも一緒。甘いものご飯として食べるの向いてないです」
「そういう意味じゃないんだけど」
果実の輪切りはもう疲れたので白くつるんとしたなにかを食べてみる。
フォークを刺すと意外とぷにょんとした弾力性があり、口に入れて噛んでみるとミルクっぽい味がした。
お!なかなか見た目も味も悪くない。
まともに食べられそうなので二つ目、三つ目とぱくぱく食べている僕を、なぜかトゥイーニーさんは怪訝な表情で見つめている。
「どうかした?」
「魔力も体力も回復できる魔力虫……わかってるですけど、食べてるの見るのも気持ち悪いです」
僕は自分がなにを食べたのか考えないようにしながら、込み上げる吐き気を根性で我慢した。
先に言っといてほしかったな!
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