第9話 [種族]②


「ここはどこなんですか?それになんであれで僕の体は治ったんですか。通じなかった言葉も一瞬で理解できるようになってるし……もうなにがなにやら」

「この世界には共通語がございます。どのような種族も生まれたときから共通語は話せるので……意思疏通ができなかったカル様をスチュワードが不便に思い、覚えていただいたということかと」


執事スチュワードを見るととても丁寧にお辞儀をされた。


「説明不足は承知しております。なにせ時間がございませんでしたので」

「なにをされたのかわからなかったんですが、副作用とかないんですよね」

「言葉を覚えることに副作用があるとは思えませんが」


丁寧なんだけど、どうも言葉のトゲを感じる。無理矢理よくわからない方法で覚えさせられた言葉に不安を覚えるのは当たり前だろ!


「どこからご説明するか悩むのですが、ここは《夜の国》と申します。魔神様の加護を受けた種族が主に暮らす国で、私はヴァンブラッド家の吸血鬼ヴァンパイア族です」

「は……え?吸血鬼族?それに魔神様ってなんですか?みんな人じゃないんですか?」


聞くからにやばそうな言葉がぽんぽん出てくる……。


「魔神様というのはこの世界を創造した魔神・邪神・聖霊の三神のうちの一神で、私たち魔神種は魔神様によって生み出されました。《夜の国》には一部の魔神種に危害を与える聖なる光がなく、種族それぞれが魔力を持っています。カル様がマグダにゴブリンだと思われたのは魔力が極端に低かったからですね」

「主のお言葉がなければゴブリンとして処分していたところだ。感謝するといい」


情報が、情報量が多いよ……。


それにこんな偉そうな喋り方だったのかこの人。いや、人じゃないらしいけど。感謝するといいってなんだ。僕はぶん投げられて怪我させられてるのを忘れてるのか。


「マグダ、カル様に失礼ですよ」


ルルゥさんに怒られたマグダはしゅんと落ち込んだ表情になったが、特に謝罪もないまますぐ無表情に戻った。心なしか睨まれている気がする。


「吸血鬼というのは血を飲むことで強い魔力を発揮します。酷い怪我をされていたので回復に必要な魔力が足りず、更に痛いをさせてしまうとわかっていながら吸わせていただきました……」

「あれはルルゥさんの魔力なんですか?全身あちこち痛かったのですごく助かりました!」


悲しそうな顔をするルルゥさんに本当に心の底から感謝する。ゴブリンとマグダとスチュワードに痛い思いをさせられただけで、ルルゥさんにはなにもされていない。


それどころか二人の代わりに謝ってもらって助けてもらった。伝えられる限り全身と言葉を使って感謝したかったが、なぜか突然体がガクガクと震え始めた。


「ひっ!」


両脇を見ると明らかにスチュワードとマグダが怒っている。


「《夜の国》を統べる種族の一つであるヴァンブラッド家の姫様の名前を呼ぶとは、命が惜しくはないのですね」

「立場もわきまえず私の前で我が主の名を呼ぶとはな」

「どうぞ、ルルゥと呼んでください」


震えていた体がぴたりと止まり、両脇の二人は慌ててルルゥさんを見た。微笑むルルゥさんと戸惑うスチュワードとマグダ。


「カル様にはヴァンブラッド家の名など関係ございませんし、私にとってカル様は大切な方だと説明しましたよね」

「……大切な方?僕が、ですか」

「はい。吸血鬼はどの血を吸うかで生成される魔力が変わります。弱い種族であれば少量の弱い魔力、強い種族であれば魔力も種族自体も強くなりますが、例外がございます」

「例外……」

「それが奇跡の種族と呼ばれていた存在、《人間》なのですよ。カル様」


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