第8話 [種族]


玉座に座る美少女は運ばれてきた僕を見るなり、慌ててこちらに駆け寄ってくる。


「申し訳ございません!私のことを想うばっかりに二人が乱暴なことをしてしまって、その、本当に……」


血塗れになっている手をぎゅっと握られて、扱いの違いにじわっと涙が浮かんだ。まともな人もいるんだ、よかった……。


「本当に申し訳ございません……」


そう二度謝った美少女はなにを思ったのか、握っていた僕の手を口に近づけると容赦なくガブリと噛みついた。


驚きのあと一瞬遅れて全身に痛みが走る。


さっきまでの掴まれたり投げられたりした痛みは、全体的に鈍くて重たい痛みだったけど、一点集中で鋭い痛みがくるとこれはこれで体が跳ねるほど痛い。


「ぐっ!ぅ、っう!」

「もう大丈夫、大丈夫ですよ」


なにが大丈夫なんだと怒りそうになり、ふと全身の痛みが消えていることに気がつく。足首の違和感も腰の打撲も手のひらの鋭い痛みも全くない。


異常な眠気も消え去り、頭がはっきりとする。


いろんなことがありすぎて脳の処理が追いつかず、とりあえず僕は美少女に手を掴まれたままゆっくりと体を起こした。


「もう、なにがなんだかさっぱりわからないんですが……」

「突然痛い思いをさせてすいませんでした。貴方様がここにいる理由はわかりませんが、説明はできる限りさせていただきますので」


謝ってばかりで伏し目がちだった美少女が僕の方を見ると、その瞳は真っ赤にキラキラ輝いていて、改めてその美しさに胸がどきどきした。


「ここではなんですから、応接間へご案内いたしますね」


手を引かれて立ち上がり、僕はみっともなく周りをキョロキョロ見ながら移動する。


大扉から玉座までふわふわの高級な絨毯が敷かれていて、石造りの柱がものすごく高い天井を支えている。壁と床はつるりとした石レンガが積み重なり、窓がないせいか全体的に薄暗い。 


執事が大扉近くのドアを丁寧に開けると広い部屋があった。


こんなに広い部屋なのに、中には一対のソファーと低いテーブルがあるだけだ。


「どうぞ、お掛けください」

「あ、はい。ありがとうございます」


こんな高そうなソファーに座ったことがないから気を使ってしまうなぁ。マナー的に普通に座っていいもんなんだろうか。


ちらっと向かいを見ると美少女はもうすでに座っていて、両脇に美人と執事が立っていた。


ソファーに座ると美人が飲み物を見るからに高そうな入れ物に入れて出してきた。これもすぐに飲んでいいのかわからないので置いておこう。


「まず自己紹介から。私は現在この城の城主をしています、ルルゥ=ローゼン=ヴァンブラッドと申します。執事のスチュワードとメイドのマグダ、今ここにはいませんがメイドのトゥイーニーとここに住んでおります」

「僕は……カルといいます」

「カル様、改めて貴方様を手荒く扱ったことスチュワードとマグダの主として謝罪したします。あのときはカル様のことを城を襲うゴブリンと思っておりました」


ゴブリンというのはあの緑の小人で間違いないだろう。あれと間違われるって…見た目でわかったりしないんだろうか。


ルルゥさんたちは僕や村の人達と変わらない見た目をしてるのになにが違うんだ。


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