第7話 [捕虜]③


「ぅ……ね、てた?」


顔を伏せてやり過ごそうとして、どうやらその体勢で寝ていたらしい。怪我をしてるのに変な姿勢で寝てたから首と背中がすごく痛い。


ゆっくり動き出して、さっき美人が口論して割った壁に向かう。鉄格子と壁がくっついている部分に亀裂が入ったので、そこからなんとかして出られるかもしれない。


とにかく隙間を広げようと指をねじ込んでみたり、爪でガリガリと削ってみたりした結果、両手が血まみれになっただけで終わってしまった。


これでまた痛いところが増えた……。笑えない。


「なんで……こんな目に遭わなきゃいけないんだ……」


壁によりかかり、真っ赤な自分の手を見つめて泣きそうになっていたら、静かだった牢屋にコンコンと金属音がした。


《お休み中のところ失礼いたしますが、姫様からのご挨拶がございます》


またあのわからない言葉に顔を上げるとさっきの男性が一人だけで立っていて、僕になにか言っているみたいだ。


「なにを言っているのかわかりません」

《種族特有の言語ではない聞き覚えのない特殊な言語ですね。ぜひ出自を調べてみたいところですが、今は急いでおりますので》

「全身が痛いんだ、もう放っておいてほしい……」

「それはできません。姫様からのご挨拶がございます」


無視しようと閉じかけた瞼を開いて執事を見た。言葉、通じるのか……。


「え、あの……言葉が」

「時間がございませんので貴方の脳に共通語を覚えさせました。では、姫様のところへ」


言葉がわかるようになったけど、執事が僕になにかした様子はなかった。ぱっと突然言葉がわかるとこれはこれで混乱する。


なにを聞こうか迷っているうちに執事は檻を開けて僕に近づき、座っていた僕の腰辺りの服を掴み上げた。重心が頭に片寄って前のめりになり、顔面が地面すれすれで止まる。


「っわ!」


そのまま廊下に出ると、あの美人のように猛スピードで執事は移動した。頭が固定されていないから振り子みたいに揺らされて気持ち悪い!


う、吐きそう……。


幸いにもあまり移動に時間はかからず、分厚い大きな扉を執事が開けると、吊るされたまま広い部屋に降ろされた。手を離すときになにも言ってくれなかったので、受け身をとれずに僕はべちゃっと床に落ちた。


「姫様、お待たせいたしました」


倒れたまま執事が声をかけた方に顔を向けると、そこにはいかにも身分が高い人が座りそうな玉座を挟んで僕を見下ろすあの美人と、さっきまで横にいたはずの執事。


そして黒髪の美少女がいた。


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