第6話 [捕虜]②


試しに壁をコンコンと叩いてみた。音は反響するどころか少しも鳴らず、軽く叩いただけで手が痛んだのですぐに諦めた。


茶色と黒の土が混ざった地面なら惚れるかもしれないと思って靴のつま先で根気よく削ってみたけど、しばらくして分厚い金属の床に当たったのでこっちも諦めた。


水や食べ物がない、お風呂もトイレもない。知り合いはいないし、体は痛いし…もうボロボロだ。


「ふて寝しようかな……」


脱出するぞ!という元気はなくなっていて、今はもうとにかく寝ていたい。なんでこんなことされなきゃいけないんだ!と泣きじゃくりたいけど、まだ恥ずかしいと思える精神力が残っていたので我慢する。


座った状態で膝を抱えて壁に寄りかかり、うとうとしていると奥の方で扉が開く音がした。


《貴方はこの城になぜゴブリンなど入れたのですか?種族がわからないなら殺しておけばよいのでは?》

《別の言語を話す種族不明のゴブリンなど今まで出現しなかった。それを調べるために持ってきたのだとなぜわからない》


なにか話しながら鉄格子の前に現れたのはさっきの乱暴者の美人で、もう一人は執事服に白髪の眼光鋭い初老の男性だった。


《突然理由もなくゴブリンが城へ集まり、こちらを攻撃してきたのは彼が原因だとでも言うつもりですかな。あの卑怯でひ弱で繁殖力のみで生き残っているような存在が、彼の為だけにを勝ち目のない戦いを仕掛けたと?》

《奴らは一匹残すと百匹になって帰ってくるというだろう。存在は確認されていないが、これがその増殖する原因だとしたら?我が主の立場が少しは良くなるかもしれない》


話の途中にガンガンと鉄格子を叩かれ、体がビクッと跳ねた。美人の視線は完全に僕を敵視していて、表情も軽蔑しているようだ。


相手の男性は眉間にシワが寄っていてかなり不機嫌そうだけど、目は冷静に僕を観察しているように見える。


《まだ納得はできませんが、姫様のご判断に任せるしかないでしょうな。それにしてもこのようなときに面倒を持ち込むとは……配慮、という言葉をご存知ですかな?》

《本当は伝達しなくてもいいお前に話を通してやって、我が主が望んだ優しい心で意見まで聞いてやっている。お前が主の配下でなければ殺しているところだ》


二人が言葉を交わすと美人が手を置いていた壁に亀裂が走り、男性が踏みしめていた床がバキバキと割れた。え、怖い!なにを言ってどうなってそうなった!?


なるべく巻き添えにならないように体を小さくして顔を伏せていると、話し声のあと足音が遠退いて扉が閉まる音がした。


あぁ……もう、心臓に悪い……。


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