第5話 [捕虜]


《貴様はなんだ?新種のゴブリンか?》

「え?なんですか?何語?」


急に美人に異国語を言われても、僕は生まれてから一度も村を出たことないからどこの国の言葉なのか検討がつかない。世界共通語の他に、地域によって昔ながらの言語が残っているって聞いてたけど……それなんだろうか?


《ゴブリンの亜種か?いや、あまりにも見た目が違うしな》

「あの、こんにちは?ここは魂の国ですか?」

《下等生物の鳴き声は耳障りだ。貴様を調べるまで黙っていろ》


難しい表情をしても美人は美人なんだなぁと感心したのもつかの間、突然僕は頭を鷲掴みにされた。頭に感じる『これ絶対に外せない』という力に恐怖を覚える。これ大丈夫!?潰されたりしない!?


「いった!なにするんですか!?」


小人といい美人といいどうなってるんだ!?びっくりして逃げようと美人の腕を掴むと、ちらっと僕を見たあとにそのまま頭を掴んだまま勢いよく走り出した。


ものすごい速度で森が後ろに吹っ飛んでいくように見えるし、宙に浮いてぶらついている自分の足も見える。


「痛い!痛い!ちぎれる!」


痛い思いしかしてない!死ぬ前の熱と苦しさよりはマシだけど、もうちょっと痛くないようにしてくれ!


あっという間に森を抜け、石のレンガで造られた地下道のようなところに入ったかと思えば、いくつか角を曲がって分厚い扉の前で止まった。


《安心しろ。ゴブリンならばすぐ殺してやる》


重たそうな扉が開いた先は、長く薄暗い廊下に向かい合う牢屋がいくつもあって、太い鉄格子と茶色く汚れた石レンガの壁がここがどういうところなのかを示している。


「うぐっ!ぐっ……う」


そのうちの一つに乱暴に投げ入れられ、掴まれていた痛む頭を抱えればいいのか、投げられてぶつけた背中を庇えばいいのか、取れそうに痛む足首を気にすればいいのかわからず、全身の痛みに呻き声を出した。


背中をぶつけたときに口の中を切ったせいか、美人の靴と牢屋の床に少し血が飛んでいた。


「なに、するんだ」


僕の文句が聞こえないのか、美人は牢屋の鍵を閉めると薄暗い廊下の先へ消えていった。


薄々感じていたことだけど、ここは魂の国じゃなさそうだ。転生をするところなのに言葉は通じないし、乱暴に扱われるし、なにより痛みがあるのがおかしい。


口元の血をぐいっと拭って脱出できそうななにかがないかを探す。穴でも道具でもなんでもいい。ここに入れられたのならすぐになにかをされるわけじゃないだろう……多分。


あの人が戻ってくる前にどうにかしないと……。


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