第4話 [始まりの土地]②


無我夢中で走り続けたせいか、道の途中にあった太めの枝を踏んで僕は勢いよく前に吹っ飛んだ。


どこまで続くかわからない道だから、ついゴールを気にしすぎて地面に注意してなかった!


『あっ』と思ったのも束の間、木々のあいだからズサッと飛び出したあと、勢いを殺せずゴロゴロ転がってなにか硬いものに当たる。硬いもの?


「グ。グギギ……」


背中に当たった硬いものを見ようと体を起こすと、それは座り込んでいる緑色の小人だった。


小人といっても可愛らしいものではなく、全体的に筋張っていて、痩せているからかあばら骨が浮き出ている。ギョロりとした濁った目に、黄ばんだ鋭い歯、ボロボロの布で体を被っている見た目からして危なそうな生き物だった。


「あ、ごめんなさい」


なにかわからないものには近づかない。母さんに言われたことを思い出す。危ないものは見るだけで体が逃げようとするから、本能に従って逃げなさい、と。


「っ!」


本能に従って地面を蹴って逃げようとしたら、小人に足首を掴まれた。見た目以上に力強くて足首からミシミシと音が鳴る。


「このっ!離せ!」

「ガギギ、ググ、ギギア」


濁った声でなにか言っているけどさっぱりわからない!自由な方の足で小人の胴体を蹴っ飛ばすけど、岩を蹴っているかのようにびくともしない。


濁った目と歪んだ口が僕を馬鹿にしたように笑う。なんだコイツ!まさかとは思うけど、これが僕を転生に導く存在なら神は性格が悪いんじゃないか!?


何度も胴体を蹴りつけたが、その度に小人はニタニタ笑って僕の足を握り潰さない程度に締めつける。どう考えてもこれは遊ばれている。


こうなったらいっそのこと噛みついてやろうかと思い、体を曲げて無防備な膝に近づこうとした瞬間、なぜか小人が立ち上がって僕の足をぱっと手放した。


「うわっ!」

「ギギギ!」


さっきのニタニタ笑う表情とは違い、怯えた顔の小人は僕が飛び出した木々の中に素早く逃げ込む。足を離された僕はズキズキする足を抱えて、怯えた表情を向けた方向を見つめる。


なにに反応したのかわからない…でも逃げるようななにかがあるのは間違いない。


逃げたくても足が痛んで走るどころか立ち上がれそうにない。でもここにいたらなにかに襲われてしまうかもしれない。逃げられないなら隠れるしかないと、腕を使って茂みに這いずっていく途中に背筋がゾッと冷えた。


――――ザッ


小人が見ていた方向の茂みが揺れ、きらりと光る銀色のなにかが通りすぎたと思えば、小人に逃げた木々へと消えた。早すぎてなにかわからなかった……。残像のようなものしか見えなかった。


なにかが通りすぎるとさっき感じた悪寒も音も消え、あとは静かな森だけが残っている。


「え?」


そして茂みに辿り着けず、腹這いのままぽかんとしていた僕の前にそれは現れた。


瞬きした一瞬で僕の前に現れたその人は夜に煌めく銀色の髪をしていて、褐色の肌に金色の瞳がとても似合っている美人な女性だった。


もしかして……この人が導き手の美人!?


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