コンド、キミを

「おはよう」

 教室に入ると奈美が笑顔で挨拶してくれた。

「おはよう」

 挨拶を返しながら椅子に座り、カバンを置く。

「あ、奈美ノートありがとう」

「あー忘れてた!なくしたと思ってたわ」

 微笑みながらノートを受け取る親友は、昨日と変わらない笑顔だった。

「昨日ちゃんと帰れた?」

「うん。あんな遅い時間まで付き合ってくれてありがとう」

「いいのよー親友だもん」

 昨日は二人でちょっと遠くにあるショッピングモールに買い物に行き、帰りに奈美の家の最寄り駅で話していたらいつの間にか寝てしまっていたのだ。

「家帰ってからすぐめちゃくちゃ寝たわ」

「えら!疲れちゃったよねー私たちもう若くないわ」

「ほんそれ。中学の時より体力ない」

 朝の教室はがやがやしている。一番後ろの角の席からみんなを見つめながら奈美に話しかける。

「あーそういえばさ、昨日変な夢見てさ。なんかへんな村?みたいなとこに行く夢見たんよね。なんだっけカイセ?様とかいうのを崇めてて……」

「やめて」

「え?」

「その話、忘れて」

「どうしたの奈美」

 困惑して、奈美のほうを見ると、見たことないほど恐ろしい形相をしていた。

「こんどは」

「ん?なに?」

 急に黙ったと思ったら、小声で何かをつぶやいていた。

 よく聞くために近づくと

「コンド、キミを、ツレテ、カエル」

「うわぁ!?」

 意味を理解した瞬間驚いて奈美から離れる。

 隣の席にぶつかり、しりもちをつく。隣の机の上にあったカバンが足元に落ちた。

「理江鈍臭ー。だいじょぶー?」

 近くにいた子がくすくす笑いながら声をかけてくるが、恐怖で声が出ない。

 その子はすぐグループの会話に戻ってしまい、もう私に興味を向けない。

 誰も私が見つめる先の奈美に気づかない。

 というかそもそもさっきの子は誰だ。こんな人私のクラスにいたか。私の隣の席は奈美のはずなのに。というかこのかばん奈美のやつじゃない。誰のだ。じゃあこの奈美は誰なんだ。

 すごい形相のまま奈美は私に近づいてきて、顔を至近距離まで近づけてくる。唇が触れそうな距離まで来ると、にやりと笑い、

「コンド、キミを」







 テレビで都市伝説の番組を放映していて、その中で私の住む県に宇宙人にまつわる地があると特集をしていた。

 「宙峠町」というそこには、かつて宇宙人が降り立ち、そこにあった集落まるまるを乗っ取り、住む人々を実験の対象としているという伝承が残っているらしい。実際に番組の人がインタビューにいくと「宙峠駅」の周りはとても栄えていて、ビルが乱立していた。駅から峠までのバスも出ていて、峠の奥にあったといわれる集落はすべてダムに沈んでしまっていた。しかし今はそのダムの付近に夜中に通りかかると、女性の叫び声や、男性の影をみたりする心霊スポットとなっているらしい。

 日常に飽き飽きしていた私は今度、大学の友達である奈美や彼氏を誘ってみんなで肝試しにでも行こうかと計画を練り始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コンド、キミを 霖雨 夜 @linnu_yoru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る