第7話

5限を受ける気力を失ってしまった僕はふらふらとした足取りで屋上へと向かった。

もしかしたら咲桜さんが待ってくれているかもしれないなんて、自分の身勝手さには笑えてくるものがある。


「おい、大丈夫か」


後ろから声が聞こえた。聞き慣れた低い声。

そこにいたのは御子柴だった。

僕は御子柴の元に駆け寄ると、ついさっきの出来事を詳細に話した。

御子柴は終始、深刻そうな顔で僕の話を聞いていた。

聞き終えると、御子柴はゆっくりと話始めた。


「お前の気持ちはわかる、わかるよ。人に裏切られるって凄く堪えると思う。でも咲桜さんはお前を裏切ったりするような人じゃないだろ。」


「そんなことわかってるよ!いずれ乗り越えなきゃいけないってことも、咲桜さんはそんな人じゃないってことも。

でも怖いんだよ、いざ目の前にすると足がすくんじゃうんだよ。」


僕は親友の言葉に反発するように怒鳴った。

そして我に返って「ごめん」と呟いた。

やれやれと言った感じで御子柴は頭を掻いた。

そして意外なことを言った。


「要は面と向かってじゃなきゃいいんだろ?ちょっと来い」


────


着いた先は放送室だった。

御子柴は部屋の電気をつけるとマイクを指差して言った。


「ここで声を録音して、桜坂に向けて流そう。まだ咲桜さんは学校にいるはずだからな。」


御子柴の話では咲桜さんはまだこの学校に残っているという。

時計は6時を過ぎており、ほとんどの学生はもう帰路についている時間帯だ。


「確かに面と向かってじゃないけど、何を言ったらいいのか…」


「春人がさっき言えなかった気持ちを伝えればいいだろ!それに歌はそんなに上手くないかもしれないけどよ、お前の言葉には力があるんだよ。昔から聞いてた俺にはわかるんだ。親友の言ってることくらい信じろよ。」


御子柴は優しくも厳しい口調で言った。

それを聞いて僕はとても後悔した。

何故、過去の傷にばかり耳を澄まして大事な人の声をちゃんと聞こうとしなかったのかと。


「都合が良すぎるかもしれないけど、もう一度だけ咲桜さんに会いたい。会って、ちゃんと聴いて伝えたい。」


御子柴は僕の返答を聞くとにやりと笑い、機材のスイッチを入れた。


「俺に良い考えがある!マイクの前に立て!」


僕が時間を気にしているのを察したのか御子柴は続けて言った。


「咲桜さんには、6時30分くらいに桜坂に来て下さいって行ってあるからな。大丈夫だ。」



僕は御子柴に感動を覚えた。

そして、いつか彼が窮地に陥ったときは必ず助けると心に誓った。


────

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