真白の魔導書
何も書かれていない真っ白な本を貰った。
差出人も何もかも不明。ただ一年後に世界を救うものと添えられている。
表紙も中の頁も全て味気ない白で統一されている。不気味で気味が悪いが、そこが興味をそそらせる。思わずそれを学校にまで持ってきていた。
友達に見せるとそれは注目の的となった。
特別な一冊。何もないから特別なのだ。だが、何もないからつまらない。味がしない。価値が分からないから必要とも思えない。
必要がないから友達にあげた。友達は貰うと否やその本に落書きをし始めた。
それからその本は何もない白い本から落書き帳へと変化した。友達は本を共有し、クラスの落書き帳に変わった。価値の分からない本は思い出に残る落書き帳という価値あるものに成り上がった。
白い頁が黒に埋めつくされる。時々、多様な色が混じり個性的な世界が広がっていった。半年も経てば、全ての頁が自由な絵で埋め尽くされた。友達とクラスとみんなで作った思い出の一冊。それを捨てられるはずもなく大切に保管した。
さらに半年経った頃、世界に異変が起きた。
何が起きたのか、突然発生したフラッシュに目を閉じた後、目を開けた時にはどこかへと閉じ込められていた。
大きな部屋に多くの人が閉じ込められていた。
友達もクラスメイトも先生も家族も近所の人も知らない人までもいる。みな混乱し惑う。
混沌の中、一人の男が声を荒らげる。「聞いてくれ。私は未来から来た。このままここにいれば私たちはみな、死ぬ」そう言って、さらにこの場を混乱させた。
逃げ惑うも逃げられない。何もできないことを突きつけられた人間は涙を流しながら膝から崩れ落ちていく。壁を壊そうと暴れていた人間も何もできず疲れ果てる。
部屋には何も無い無音と時々聞こえる涙を啜る音で包まれた。
その時を見計らって先程の彼が「ここから脱出する方法を私は知っている。それは私が未来から送られた魔導書を使うことだ。それに書かれた通りに従えば、ここから出られる。死なずに済む」と言う。そして、何もない所から一冊の本を取り出した。
紛れもなく、それはクラスみんなで作った落書き帳であった。
聞きなれない音と同時に部屋の天井が下がっていく。このままでは潰れてしまう。何もできないからこそ、彼に縋るしかなかった。
魔導書に文字が現れていく。真っ白な本の上に文字が浮き出ていく。しかし、みんなの思い出が上書きして文字を隠していた。
本来なら魔導書に従って脱出できるはずだった。死ぬことなどなかった。だが、魔導書は。
罪悪感が心を襲い涙が止まらなくなった。
冷たい部屋の空気の中、彼の放った言葉が周りの人を凍らせる。
この誤りを謝りきれない。
その高い価値をしらない自分達は低い価値で上書きし、本来の価値を消し去った。
この部屋の中には天井が下がっていく音だけが響いていった。
何も書かれていない真っ白な本を貰った。 ふるなる @nal198
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