第17話 施設の皆さん
「……とうとう行ってしまったか」
「私たち、うまくできたでしょうか」
「良い旅立ちになっただろうか」
こればかりは少女に聞かないとわからない。
少女とは悲しい別れにしないでおこうと、もし少女がここに
ひとつめの願いである『亡くなった入居者の家族にここでの話や想いを伝えて欲しい』にしても、
少女が外の世界に慣れるきっかけになればいいと考えてのことだった。
ただ、どれだけ外の世界に慣れても、訪問が終わって続かないのでは意味が無い。
どうすればいいのか皆で話し合った。
『新しい世界に出るのだから、ゲームのようにすれば入りやすいのではないか』
個人的にはゲームを
導入部はだいたい同じで、魔王を倒すという大きな目的を
ちょうど朝倉夫人のご主人が
でも、皆ができるのはお
少女と一緒に行くことはできない。
皆の人生で経験済みだから、そこは皆、心配していなかった。
「できれば解いて帰ってきたあの子に『よくやった』と言いたかったがな」
「それはあの世で言うしかない」
「あの子の思い出話を、あの世で聞くなんて、面白いわ」
「あの世に行く楽しみが増えましたね」
ふふふと笑い合う。
これが少女との
「それに、私たちからはちゃんとメッセージを残した」
「大丈夫ですわ。私たちがいなくても、あの子はこれからもちゃんとやっていけますよ」
「短い間じゃったが、
この終末医療施設は少々
できる限り面会者を
入居者は、地位はあるけれども現実世界に疲れ切った人間ばかり。
大人のつきあいとして表面上は仲良くしていても、誰も心の底から打ち解けていなかった。
残り死ぬまでの短い期間一緒にいるだけ。初めはそれだけの関係だった。
そこに少女を呼び込んだのは、入居者の一人が検査のために通院した
光のない目をした少女は、まさにこの施設に入るのに相応しいと思い、他の入居者に相談した。
他の入居者も少女を受け入れようと意見はまとまり、少女側も家族が疲れ切っていたので、一度離れてお互い気持ちを切り替えた方がいいだろうと少女の担当医も同意して、すぐに少女がやってきた。
世の中の
皆は最初、少女を
先の短い者同士からの大人な対応が良かったのか、少女ははじめこそ無表情だったけれども、やがて素直な感情を見せるようになった。
病魔に
入居者の一人が亡くなったとき、少女は
ほんの数ヶ月の付き合いでそれほど泣いてくれるのか。自分の時はどれほど泣いてくれるのか。少女の心の中に少しでも自分の存在が残ってほしい。
皆から少女への態度は少しずつ誠実なものに変わっていった。
ある時、少女から
以前の皆なら「世の中は大変なことばかりだからすぐに死ねるのは幸運だ」とでも言ったかもしれない。
でも、今の皆は誰一人、そんな解答を言いたくなかった。
一人が、自分の人生で一番
すると
少女の問いに対して明快な解答ではなかったけれども、むしろ絶対的な解答でなかったことが良かったのか、それから少女は皆に思い出話をねだるようになった。
ねだられるまま、皆は毎回違う思い出話や、気に入っている同じ話を
話していると、自分の中だけにあった思い出の彩りは
不思議と、誰も少女に
ある日、施設の管理者から皆に、少女の病気が治ってきていることが知らされた。
このまま良くなれば施設にいられる条件から外れてしまうので、条件を変えるかどうかの話し合いのために、皆は少女より先に知らされたのだ。
病気が治ることはいいことだ。
長年生きてきた自分たちならともかく、まだそれほど生きていない少女がこれからも生きていけるのは良いことだ。
皆、奇跡に感謝した。
ただ、ここにいられるのは、間もない死に向かう者だけ。
皆この施設は
生きられる者は
そこだけはゆずれない。
でも、一人だけここから出ることを、少女はどう感じるだろう?
皆は少女がギリギリまで
「まさかこんな風に皆さんと過ごせるようになるとは思いませんでしたわ」
ふふっとおかしそうに笑うと、皆も頬をゆるめる。
「皆でなにかを成し遂げるのは、やはり格別じゃな」
「残り短い間ですけど、変わらずよろしくお願いしますね」
「もうあの子と話せないのは残念ですが、これからは私たちで話しましょう」
ゆったりとした動作で、皆、施設の中に戻って行った。
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